Japan Cloudでは以前からバイロン・ディーター氏を取材する機会を待っていました。

ディーター氏はBessemer Venture Partners社のパートナーであると同時に、エンタープライズクラウド業界における著名な投資家の1人であり、この業界を代表する人物です。今回のインタビューでは、クラウドの現状、ベンチャーキャピタル業界、グローバル展開するスタートアップ企業、またもちろん日本について、詳細にお話を伺いました。ディーター氏の見解は興味深く、示唆に富むものであると感じていただけると思います。  

インタビューは2部構成(前編と後編)にしました。今回は前編で、後編は後に公開いたします。

開示情報: ディーター氏はJapan Cloudに投資している投資家の1人です。  


世界で最も長い歴史を有するベンチャーキャピタル企業

アルナ・バスナヤケ(以下「アルナ」): クラウドの現状を掘り下げる前に、Bessemer社およびご自身のバックグラウンド、今日に至るまでの道のり、何が原動力となっているのか、またベンチャーキャピタリストとしてどのようなビジョンをお持ちなのかについて教えていただけますか。  

バイロン・ディーター(敬称略、以下「バイロン」: Bessemerは、北米、また恐らく世界においても最も長期にわたりベンチャービジネスを行っている企業であると謳っており、その歴史は1911年までさかのぼります。 欧州には、やはり自らが最古であるとする投資企業もいくつかありますが、当社がベンチャーキャピタル分野において世界で最も長い歴史を持つ企業であることはほぼ間違いありません。 

そしてこの間の一貫したテーマとなっているのが、長年にわたる高度成長テクノロジーです。今日、当社は世界9つの拠点にオフィスを構えており、運用しているアクティブ資産は約100億ドル、ポートフォリオの価値で言えばその数倍に上ります。  

当社はいくつかの中核となるテクノロジーハブから多国に渡って投資を展開しています。現在は、米国の東海岸と西海岸、インド、中国、イスラエル、西欧に複数のオフィスを構えています。また日本をはじめとする市場には、パートナー企業を通じてビジネスを展開する戦略を採っています。

私とBessemerのつながりは、22年前までさかのぼります。当時私は自分が創立した初期クラウドコンピューティング企業のCEOを務めていましたが、この会社はBessemerの投資先の1社で、BessemerはシリーズAを主導していました。

私の会社にとってBessemerはメインパートナーとなり、いわばお互いに相対する立場から協業する関係にあったわけです。私自身はその少し前にベンチャーで働いた経験があったのですが、本当の意味でこれが私にとっての起業家としての活動、クラウド、そして特にBessemer との出会いとなりました。

アルナ: この20年間で、シリコンバレーのベンチャーキャピタル業界はどのように変化したと思いますか。

バイロン: この数年間のベンチャーキャピタル業界は、それまでの数十年を合わせたよりも多くの変革を遂げてきたと誰もが口をそろえて言うでしょう。

投資ラウンドの規模、そのスピード、最終的に得られる成果の大きさのすべてが劇的に変化し、起業家、創造性、ビジネス革新に利益をもたらしています。今ほど起業が簡単で適している時代はありません。今ほどソフトウェアビジネスの拡大に適している時代はありません。 

またテクノロジーとサービスの両方において、その基盤となる層が今ほど堅牢な時代はありません。このような状況が、数多くの優れた企業の台頭とこれらの企業を支援する豊富な資本につながっています。 

ベンチャーの美学というかロマンチシズムの観点から言うと、初期の段階で投資家のコラボレーションはあまり見られません。以前は2、3社の大手が初期段階の取引でパートナーを組み、お互いに案件を共有し、協力して投資活動に取り組んでいました。今は利用可能な資本が潤沢にあるのでこのような形はあまり見られなくなり、一般的に各投資ラウンドを1社が主導しますが、通常は資金を供出してより大きな所有権を得るための競争があります。そして、各ステージにおけるシンジケーションやこれらの案件を共有することが少なくなります。


ビジネスの根本的な「Replatforming」(リプラットフォーミング)とは

アルナ: ベンチャーキャピタリストとして最も大きな刺激となっているものは何ですか。

バイロン: 毎朝起きて、楽観的で素晴らしい人たちと仕事ができることです。また、単純にこの仕事の本質的な部分が私の肌に合っているとともに、数々のイノベーターや大きな野心やアイデアを持っている人たちと働くことが大好きです。多くの場合、彼ら彼女らはこれを実現する能力を持ち合わせているから。

1999年、2000年とクラウドコンピューティングが登場したばかりの時代を見てきた私の目には、クラウドコンピューティングは根本的なビジネス基盤の変革であり、その優位性を早い時期から確信していました。 

それ以前、McKinseyのコンサルタントとして、また初期の投資家として活動していた頃は、全く使い物にならないソフトウェアをたくさん見てきました。非効率的でお金の無駄でしかない数多くのシェルフウェアが多くのストレスを生み出し、膨大なプロフェッショナルサービス費用と導入作業を必要としていました。 

このような経験から、ビジネスの「リプラットフォーミング」、つまりクラウドプラットフォームへの移行と最適化、に大きな可能性があり、また必要とされることを絶対的に確信しました。そして、これが私の起業家としての歩み、ひいては今の投資家としての歩みを支える基盤になっています。  

このテクノロジーがしっかりと根付いていくのを見ることは大きな喜びです。また、起業家の皆さんがイノベーションを推進し、ソフトウェア業界全般およびお客様がイノベーションを活用している様子を見ることにも大きな喜びを感じます。


もう1つの「Amazon Moment」?

福田康隆(以下、「福田」): 進化の過程において、注目すべきクラウド企業はどのような企業なのでしょうか。

バイロン: 現在クラウド企業のビジネスそのものと市場の状況は大きく異なっていると思います。

まず企業についてですが、今は絶好調であると思います。クラウドの利用率は引き続き右肩上がりで伸びていて、オンプレミスからクラウドへの移行が進んでいます。このままのペースで進めば、数年以内にソフトウェアの大部分がクラウドベースで提供されるようになるクロスオーバーポイントに達するでしょう。

現在の短期的な動きとしては、公開市場で始まった超高成長株から高価値株および防衛株への資本市場のセクターローテーションによって、これらの企業の数が大幅に減少しました。今市場で起きていることは、基本的なビジネスや長期的なキャッシュフローとは無関係なカテゴリーの大幅な再評価です。 

今朝CNBCのニュース番組に出演した際、司会の方に「これは2002年のAmazon Momentですか?」と聞かれ、これはもちろん、2002年、ドットコム崩壊後、Amazonが他社を抜いて、台頭した時のことを意味しているのですが、先見の明がある質問だと思います。。

この20年、インターネットとモバイルという2つの波が押し寄せ、非常に大きな価値が生み出されています。実際、Google AlphabetやApple、Amazonといった世界で最も価値の高い企業が、これらの波の中で誕生しました。 

私は、クラウドコンピューティングも現在このような再評価および有力企業の台頭といった、これらの波と同じ過程にあると思います。

最初は業界全体がインパクトを受け、その後時間の経過に伴い有力な企業が台頭するようになり、この新しい経済の真の旗手として数社のリーダーが出現するでしょう。


これからはバーティカルSaaS(業種特化型SaaS)、DevOpsおよびAPI エコノミー

アルナ: 是非そのような分離がどこで起こっているのか、また私たちはどこに注目すべきなのかを教えてください。 

バイロン: 最もうまくいっているのはサプライチェーンや地政学的な問題に対して他よりも回復力のあるセクターで、例えばセキュリティ、データ、インフラストラクチャなどのセクターが挙げられます。

もちろんこれらは面白いカテゴリーなのですが、私はこれにバーティカルSaaSも加えたいと思います。また、当然DevOpsも入ります。さらに、一部のPaaS(Platform-as-a-Service)およびAPIエコノミー企業も入るでしょう。 

今私たちが目にしているのは、再現可能なビジネスモデルを有する企業とカテゴリーの大規模な創造です。実際にクラウドの最初の波が起きたのはSaaSのピュアプレイアプリケーション分野で、その後がAWS、Google Cloud、Azure向けのIaaS(Infrastructure as a Service)層の分野でした。  

そして今、APIエコノミー層、新しい次世代インフラストラクチャ、またテクノロジースタックの上と下両方からの大きなイノベーションを提供する中間層が出現しつつあります。 

IaaS 層については、数十億ドル単位の膨大な投資が容易にできる大手テック企業が存在するので、非常に慎重になっています。 このため、長期的な守りと機会という観点からも、どうしても中間層から上位層に偏りがちなことは否めません。ただし、最も興味深いいくつかの企業はインフラストラクチャの一部から生まれてきたもので、このような環境の中をうまく舵取りしてきた企業です。

私たちはこの2週間でBVP(Bessemer Venture Partners) NASDAQ Emerging Cloud Indexに20社を加えましたが、今後の四半期でさらに20社が加わることになるでしょう。 非常に質の高い企業が爆発的に増えてきています。 

現在クラウドの分野に150社のユニコーン企業がありますが、これらの企業が次のIPO候補の波を代表する企業になるでしょう。このような環境でどの企業が成功するのか、どこに注目すべきなのかという質問への答えは、非常に面白いものになると思います。

インタビューの前編は以上です。後編はこちらです。