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特別インタビュー

「日本郵政グループは、『みらいの郵便局』を目指しながらも、全ての人が利用できるライフラインであり続けることが必須」 ー Japan Cloudインタビュー:株式会社JPデジタル CIO 柴田彰則氏

著者:福田 康隆

今回は、株式会社JPデジタルのCIO(最高情報責任者)を務める柴田彰則氏をご紹介できることを嬉しく思います。柴田氏は日本郵政グループのDX(デジタルトランスフォーメーション)を主導していますが、日本郵政グループの事業規模と複雑さを踏まえれば、それがどれほど大きな取り組みであるかご理解いただけると思います。日本郵政グループにとって、公共の使命を忠実に果たしながらイノベーション(革新)とトランスフォーメーション(変革)を進めることは、終わりのない取り組みです。

1990年代後半、柴田氏は私が日本オラクルにいた頃の同僚でした。2012年、日本オラクルに15年以上在籍した後に柴田氏は日本郵政へ転職したのですが、今回お話しいただいた転職の動機など、私にとっても大変示唆に富むものでした。

(以下敬称略)


公共サービスでありながら損益を念頭に

福田: まず、日本郵政グループについて簡単にご説明いただけませんでしょうか?。

柴田氏: 日本の郵便事業は1871年に始まりましたが、今日「日本郵政グループ」というとき、郵便事業の日本郵便株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険の3社と、郵便事業を100%所有する上場企業の日本郵政株式会社を指します。2007年の日本郵政公社の民営化に伴い組織が再編され、現在の形になりました。ゆうちょ銀行およびかんぽ生命保険はいずれも上場しています。3社を合わせると約400,000人の従業員がいます。

日本郵政グループを理解する上で鍵になるのは、当社が提供しているのはかつて公共サービスだったこともあり、現在も確固とした使命感を持ちながら仕事に臨んでいるということ、またこれと同時に株主の皆様に対する説明責任も果たさなければならないということです。 そのためには変革を進め、効率性と生産性を高めなければなりません。

デジタルテクノロジーを活用した利便性の高い「みらいの郵便局」を目指しながらも、高齢者から体の不自由な方まで、これまでと変わりなく、全ての人が利用できるライフラインであり続けることが必須です。

日本郵政グループの従業員は各地域で大切な役割を果たしています。これは特に地方において顕著です。私たちには公共サービスを提供する法的な義務がありますが、従業員の義務感は企業文化にも深く根付いており、日本郵政グループのDNAに刷り込まれています。

このような背景から、ビジネスをうまく運営していく必要と、変えられないこと、変えてはいけないこととのバランスを取ることが、私たちにとっての課題になります。


日本郵政グループの変革は日本の変革

福田: 日本オラクルから日本郵政への転職は非常に大きな飛躍だと思いますが、実際のところはどうでしたか。

柴田氏: 日本郵政はオラクルの顧客の1社だったので、私自身同社とその諸課題をよく知っていましたが、私はソフトウェアを売るだけでなく、さらにその先のことをしたいと思っていました。オラクルは卓越した製品とサービスを提供する素晴らしい企業ですが、 最終的にその目標は売上を伸ばして収益を上げるところに行き着きます。

私はそれ以上のことを求めていて、日本をより良い方向に変えたいと考えていました。 そして、日本郵政グループは日本の社会インフラの一部を担う存在であることから、日本郵政グループを変えることができれば日本を変える方法も自ずから明らかになると思いました。このような理由で、これこそ私が生涯をかけて取り組むべき仕事だと考えたのです。これが当時の私の正直な気持ちです。


クラウドを早期に導入

福田: そういった背景をお話しいただけることに感謝いたします。以前のインタビューで、日本郵政グループのDX戦略はオンラインとオフラインの融合、モバイルの推進、データの活用という3本柱で成り立っているとお話しされてましたが、その戦略全体において、クラウドはどのような役割を果たしますか。 日本郵政グループは早い段階でクラウドを導入しましたが…

柴田氏: 2007年にセールスフォースを導入したという意味では、大規模な組織としてクラウドを早期に導入したことは確かです。セールスフォースは、郵便サービスのフロントエンドで使っています。クラウドのお陰でトライ・アンド・エラー式のアプローチを行い、お客様とのエンゲージメント、ワークフロー、また全国24,000以上の郵便局間での知識共有の革新を、柔軟に進められるようになりました。

ただし、他の多くの大規模組織と同じように日本郵政グループも非常に数多くのシステムを運用していて、完全なハイブリッド環境となっています。 日本郵政グループ独自のデータセンターがあり、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の基幹システムでは複数のメインフレームを使っています。ゆうちょ銀行もかんぽ生命も新しいフィンテック(金融向けデジタルサービス)ソリューションはもとよりクラウドをもっと活用したいと考えていますが。

全体的に見るとまだ環境は非常に硬直的で、規制の諸課題もあり、より柔軟性を高めるとともに、もっとオープンにしていかなければなりません。複数の既存システムに新しいソリューションをうまく統合していくことも必要です。そして、これを実現するためゼロトラスト(社内外問わず、組織の情報資産にアクセスしようとするユーザーは一切信用せずに検証することで、セキュリティーを維持する考え方)の導入を始めております。この部分こそ、クラウドベンダーの皆さんが私たちを適切に支援できる部分であると思います。


変革する組織をどう創るか

福田: 日本郵政グループのトランスフォーメーションを進めていく上で直面している課題はなんでしょうか。

柴田氏: 最も大きな課題は、既存の従業員の意識改革およびデジタル人材の採用と育成です。これは、これまでの考え方、やり方を全て否定しているものではありません。ただ、これまでずっとやってきたからという理由だけで、これまでのやり方に固執してはいけないということです。

日本郵政グループでは、従来の前例踏襲型ではなく、実利やポテンシャルを追求し、行動するようになってきました。「なぜ」「どのように」という視点にこだわることで、新しい価値を生み出していこうと考えています。

とは言え、現在のインフラストラクチャは非常に巨大で、また複雑です。 さらに、無数の規則や規制もあります。全国の郵便局を網羅するパソコンやネットワークの維持管理だけでも、途方もない時間とコストがかかります。メガバンクであれば支店を減らすことも可能ですが、法律により、郵便局の数を維持することが求められています。私たちはこのような背景を踏まえて現実的に対処しなければならず、お客様への価値提供という意味で最も大きなインパクトを与えることができる部分に注力する必要があります。

国内の他の多くの大企業と同じように、日本郵政グループもベンダーへの依存度が高すぎるということも付け加えておきます。クラウドの展開によってより反復的でDIY的なアプローチが可能になりますが、ベンダーへの依存度の高さはこの目的を損なう要因になります。成果物については、私たちがオーナーシップを持たなければなりません。これがJPデジタルという企業が存在する理由の1つでもあります。


お客様と「共に」創り上げる

福田: 日本郵政グループのDX戦略ではデータを活用することが3本柱の1つになっていますが、今はデータ活用という取り組みの中のどのあたりにいますか? また、日本郵政グループの顧客層は途轍もなく幅広いものですが、それらの顧客のニーズへの理解を深めて対応していくために、どのような手法で臨んでいますか。

柴田氏: おっしゃるとおり、グループ3社にわたりお客様とのやり取りを通じて膨大な量のデータを利用することができます。 このデータを活用してお客様への理解を深め、よりパーソナライズされたサービスを提案することを目指しています。この戦略に基づいてグループ3社のデータ基盤の構築を進めている最中です。

サービス設計および開発のプロセスにお客様の関与を促す部分については、お客様視点で設計を行う「デザイン思考」のアプローチを手がける社内チームを置いています。日本郵政グループは、以前からお客様を大事にする文化が根付いていますが、今はお客様がサービス設計に参加できる反復的なプロセスを確立しています。これは私たちにとって重要な取り組みの1つです。

だからといって、全てのサービスをオンライン化するわけではありません。郵便局は全ての人のために存在し、便利、かつ魅力的なところにしたいと考えています。使える人だけが使えるデジタルサービス、モバイルサービスではなく、これまでの郵便局と同様、誰もが使えて社会全体に役立つもの、ユニバーサルなサービスであるべきで、これを構築することが真のデザイン思考の目的だと考えています。


実践から学ぶ

福田: よくCIOの皆さんに、さまざまな新しい技術に後れを取らないようにするためにどうしていますか、という質問をしているのですが、その点についてはいかがですか? 新しいテクノロジーやトレンドを学ぶためにどのようなアプローチをとっていますか。

柴田氏: 一例として挙げられるのが、ゼロトラストです。例えば最新のクラウドソリューションを導入することになって、社内外のプロセス間の障壁を取り除かなければならないとなったとき、ゼロトラストモデルが必須になります。

中には僻地や山間部等、必要な通信速度に対応できない地域もあります。このような地域ごとの差異に対応できる十分な柔軟性を維持したままで高いセキュリティを持ったアーキテクチャを構築するために、ベンダー各社と密にコミュニケーションをとっています。

当然、セミナーに参加したりレクチャーを受けたりする時代はもう終わりました。ユーザーコミュニティの一員として他のユーザーから学ぶことこそ、私たちが進むべき道です。

また、ベンダーとパートナー関係を結ぶとともに、ベンダーを単なるアウトソース先としてではなく共に協力してソリューションを作り上げることが重要であると強く信じています。

OJT(On-the-Job Training)形式にすることで、成果物のオーナーシップは私たちが保有しながら、新しいソリューションややり方などを学ぶことができ、社内の人材を育成することもできます。私たちが進めているゼロトラストモデルは、このアプローチの一例であると言えるでしょう。


パートナーと「共に」学ぶ

福田: それが新しい人材の獲得と育成に関する次の質問につながってきます。DXの実現に必要なデジタル人材の育成をどのように行っていますか。

柴田氏: 人材育成については2本立てのアプローチを採っています。1つは日本郵政グループ内の研修機関と連携したアプローチで、例えばPythonによるプログラミングといったような技術知識の習得だけではなく、お客様を理解し、今申し上げたデザイン思考的なやり方でお客様とともにサービス設計を進める方法を習得することに焦点を置いています。

もう1つはJPデジタルの社内で行っているアプローチで、社外のフリーのスペシャリストと契約して、新人など社内で研修の必要なメンバーがこれらのスペシャリストとパートナーを組んで問題解決にあたったり、トライ・アンド・エラー式の進め方で学んだりしていくやり方です。

このOJT式のアプローチは、高いコストのコンサルタントを使って進めるよりも生産性が高いと感じています。先ほども言いましたが、成果物のオーナーシップも私たちが持つことができます。


「みらいの郵便局」を目指す一方、誰もが利用できる地域社会のライフラインであり続ける

福田: 今後5年から10年後の未来について、柴田CIOが描く日本郵政グループの目指す姿を教えてください。また、日本郵政グループと協業したいと考えているグローバルクラウド企業にアドバイスを提供するとしたら、それは何でしょうか。

柴田氏: まず何よりも、私はクラウドの革新者であるクラウドベンダーの皆さんの情熱、製品に対する信念、企業にもたらすイノベーションをとても高く評価しています。オラクルにいたときは、皆さんと同じ気持ちで仕事をしていました。私も同じ業界にいた身です。

グローバルクラウドベンダーの皆さんにアドバイスがあるとしたら、日本郵政グループのような大規模で複雑な組織のニーズへの理解を深めてください、ということです。

私たちはイノベーションにフォーカスしながらさまざまな新しいアプローチにチャレンジしていますが、依然としてセキュリティやレガシーシステムとの統合といった基本的な課題には対応していかなければなりません。このような組織は日本郵政グループに限らず数多くありますし、日本に限った話でもありません。

このため、クラウドベンダーの皆さんは適切な製品を薦めることに加えて、顧客への理解を深めるとともに、顧客が日々実際に直面しているさまざまな現実の課題を把握することに努めなければなりません。まずは基本を正しく押さえなければ、イノベーションを進めることはできません。

デジタルやモバイル、データを活用した「みらいの郵便局」を構築しながら、全ての人が利用できる地域社会のライフラインであり続けることを目指しています。

私たちがこのビジョンを実現する上で、クラウドは重要な役割を果たすことができると信じています。

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