世界第2位の市場

福田:話に上がったそれらの企業はグローバル展開しようとしていますか。また、日本市場への参入を考えていますか。  

ヒラリー: どの企業も世界規模の有力企業になりたいと考えています。また、日本が世界第3位のGDPを誇る経済大国であり、自動車メーカーをはじめとする世界有数の大手企業の本拠地であることは誰もが知るところです。どの企業も日本市場に参入して成功することを望んでいるでしょう。しかし、多くの場合はどうすればいいのかが分からないのです。   

私がOracleに勤めていたのは同社が日本への投資の最初期にある頃でしたが、同社は日本が大きな市場になり得ることを証明しました。またIBMはOracleよりも先に日本に進出しており、日本には明らかにテクノロジーへの大規模投資の歴史があります。  

Salesforceの日本における成功も、日本企業が新しい技術を積極的に採り入れるグローバル イノベーターであるという認識を広める上で一役買いました。  

当社の投資先企業の1社Tulipは、日本の工作機械メーカーDMG森精機とパートナーシップを結び、世界の製造分野における最新のMES(製造実行システム)の標準になることを目指しています。  

日本市場への参入はハードルが高いと考えている人が多いと思いますが、全体として日本市場の強さは高く評価されています。このため、多くの企業が日本市場への参入で成功を収めた他社をお手本に、そのモデルに倣おうと考えています。 

企業が苦労するのは、現地法人をリードする適切な人材をどのように見つけるか、自社の企業理念をどのように調整するかというところでしょう。普遍的なアプローチで日本に進出しようとすることで逆に自分たちの評判を落とす恐れがあり、これを克服するのは非常に難しいことです。

また、他社の成功モデルをなぞるだけでは十分ではありません。成功は、総体的な戦略を確立することによって生まれます。また、この部分こそJapan Cloudのような企業が非常に大きな助けになるところです。これは、特にブランドのことを考えたり、リソースをどこに集中すべきかといったことを決めたりしなければならない市場参入戦略の初期段階において顕著です。  

日本でターゲットにすべき最も重要な企業はどこなのか、日本におけるカスタマー サクセスはどのようなものなのか、日本のバイヤーはどのようなことを期待しているのか、などを考える必要があります。

お分かりだと思いますが、日本で適切なリーダーを見つけることは絶対条件であり、その方法を知っている専門家で、一方の足は日本市場に、もう一方の足は本社の文化に置いているパートナーと組むことが必須です。これは非常に難しいことで、間違いなく貴重なスキルです。


ミッションにフォーカス

アルナ: 現在市場が低迷している中、投資先企業がグローバルに活躍する上でアドバイスがあれば教えてください。

ヒラリー: 実際のところ、今後何が起こるのか、いつ起こるのかといったことは誰にも分かりません。世界進出が次にとるべき正しいステップであると考えている企業にとって経済が足かせになるようなことがあってはなりませんが、前に進むにしても慎重に進めていく必要があります。まずは小さくはじめ、適切に大きくさせていくことが肝要です。 

私たちがパートナーにアドバイスしているのは、自社のミッションをよく見て、何をしようとしているのかを本当に理解して、集中力を切らさないようにするということです。

このとき重視すべきなのは効率性です。1年前であれば、効率は気にすることも、話題にすることもなかったかも知れませんが、今は投資回収までに要する期間と市場への参入と成長に向けた最も効率的なメカニズムがより重視されるようになっています。

市場が好況なときは、企業は単に他の企業の市場参入アプローチを模倣する傾向があるのですが、現在の状況は好況時よりもはるかに革新的な考え方を刺激するものになっています。このような状況から、企業には既成概念にとらわれない新しい発想をすることが迫られています。どうすれば他社との差別化を図れるのか。どうすればそれをより低コストで実現できるのか。このような問いかけが、新しい革新的なアプローチにつながります。


「気付き」のとき

アルナ: 現在の経済環境を踏まえ、役員会で最も話題になるのはどのようなトピックでしょうか。

ヒラリー: やはり、原点に立ち返り、自分たちのミッションは何かということを自ら問いかけることになるでしょう。ミッションの実現に向けて正しい方向に向かっているか、ミッションから外れた分野に投資していないか、中核となるミッションから逸れることなく取り組み、ビジネスを次のレベルへ高めるにはどうすれば良いのか、などについて話し合っています。

自社のビジネス モデルや新製品のリリース、お客様へのサービス提供などを考える上で、多くのイノベーションを促進する力になっています。このような瞬間こそが、大きな気付きにつながります。まさに、「必要は発明の母」です。多くの企業の役員会で、必要がイノベーションを促進する要因になっています。

お客様の中には、他と比べて脆弱な状態に置かれているお客様も存在します。例えば、ホスピタリティ業界はコロナで非常に大きな影響を受け、最近やっと回復しつつあります。 最も注意を向けるべき業種はどの業種なのか、お客様が何を必要としているのか、お客様をどのように支援できるのか、など、Salesforceは、2008年の不況時にこれらの問いかけをすることで、新たな成長を遂げました。  



業界の巨人たちとの貴重な経験

福田: ヒラリーさんはラリー・エリソンやスコット・クック、マーク・ベニオフといった経営者と緊密に仕事をしてきた経験を持つ数少ないエグゼクティブの1人ですが、彼らからどのようなことを学びましたか。また、学んだことを、NEAのポートフォリオ企業のCEOたちへのメンタリングでどのように活かしていますか。

ヒラリー: いい質問ですね。キャリア人生の早い時期にラリー(エリソン)やマーク(ベニオフ)の近くで一緒に働けたことは、本当に幸運なことでした。マークとはまずOracle で、その後Salesforceで再度ともに働きました。スコット・クックとは、Intuitで一緒でした。

ラリーからは、ディスラプションすなわち創造的破壊と、競合他社の追随を許さない形で市場を抜本的に再構築する力を学びました。いったん創造的破壊が行われた市場では、お客様が以前のやり方に戻ることは決してありません。 

Oracleでは、実行することの大切さ、すなわち高成長企業を作るためには、いかに全身全霊で物事に取り組まなければならないかのということも学びました。マーク(ベニオフ)も私も同じ時期にOracleにいたので、これは私たちの両方に根付いています。  

スコットからは、いかに使いやすさを念頭に製品体験をデザインしなければならないかを学びました。Intuitの製品を使っているのは小規模企業と一般消費者であり、使いやすさが命です。

そしてSalesforceでは、他の何よりもまずお客様のニーズにフォーカスすることの大切さをマークから学びました。

彼がSalesforceを立ち上げたのも、この顧客中心の考えが基盤になっています。彼は、なぜエンタープライズ ソフトウェアはこんなに使いにくいのだろうか、Amazonで本を買うのと同じくらい簡単に使えるようにできないのか、といった疑問を投げかけ、これこそがSalesforce のフォーカスしている部分です。お客様がソフトウェアをインストールしたり実装したりする必要はなく、ログオンするだけで後はSalesforce がすべてを行うと。常にビジネスの中心にお客様を据えたカスタマー サクセス モデルを推進することに専念しました。

マークは、特に人を動かすことにも長けていました。彼はビジネスを成長させる方法として、人材の流動性とローテーションに価値を置いたカルチャーづくりを行いました。このようにして、成功したリーダーに新たなロール(役割)を割り当て新しい地域に配置し、ビジネスのさまざまな側面を作り上げる権限を与えることにより、会社づくりを進めていったのです。この方法は、成長の核となる公式になりました。私たちは人、そして常に広がり続けるその知恵に高い価値を置いたのです。 



日本の企業とともにイノベーションを促進

アルナ: 最後に、日本への進出を考えている企業へのメッセージをお願いいたします。

ヒラリー: 喜んで。日本は、起業家たちにとって探索すべき非常に重要な市場であることを知ってもらいたいと思います。私がOracleとSalesforceで学んだのは、日本におけるイノベーションに焦点を当てることと、イノベーションを促進するために米国のテクノロジー企業が日本の企業とパートナーシップを組む機会です。私はこれらがもたらす力を直接目にし、日本のお客さまとのパートナーシップを基盤に成し遂げてきたすべての仕事を誇りに思っています。

Intuitの創業者であるスコット・クックは、彼が日本でトヨタの「カイゼン」方式から学んだこと、また継続的改善の考えをソフトウェア企業へどのように応用するのかということを教えてくれました。彼は、Intuitの経営に携わるリーダーたちがこのアプローチの力とメリットを確実に理解できるようにしていました。 

このようなソフトウェア業界の著名なリーダーたちと直接触れ合えたことは幸運であり、身が引き締まる思いです。これらのリーダーの誰もが、日本の市場価値とイノベーションの力を理解していました。  

このイノベーションは、間違いなく今後も当分続くでしょう。

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