2023-03-23

SaaS × レベニュー組織戦略 – イベントレポート(後編)


収益を最大化させる、新・THE MODEL実践

前回のブログに引き続き、今回はイベントの第二部である座談会パートの様子についてお伝えします。

こちらのパートでは以下、2つの論点にそって、ディスカッションが行われました。

  • 今注目されるCRO (Chief Revenue Officer) とは?
  • 収益を最大化させるため、レベニュー各組織に必要なこととは?
1. 今注目されるCRO (Chief Revenue Officer) とは?
CROの役割

最近、日本でもCROの肩書きを持つ方は増えてきている印象だが、定義は実はまだ曖昧。米国でも営業責任者がCROというケースもあるが、本来は事業全体をみるべき役職。田口さんはFORCAS事業のCEOだが、CRO的役割も担われているのでは?(福田)

CEO着任前はCROを担当していた。「Product以外の事業すべてを見る役職」がCROだと理解している。第一部の「ICP (Ideal Customer Profile = 理想の顧客像) の設計」は本当に重要なポイントなのだが、ICPを決めたとしても分業体制をとると、どうしても部門や担当ごとに「ICP」のイメージがズレてくる。顧客に対する解像度を高め、この部門間のズレを無くし、アラインメントをとっていくことがCROには求められていると感じる。(田口)

福眞さんは社長になって1年。前職では営業責任者だったと思うが、社長になって何か意識は変わったか?(福田)

私も肩書きは「社長」だが、Product開発は本社主導なので、そういう意味ではCROに近い役割を担っている。昨年は立ち上げ期だったので、認知拡大やリード獲得に重点を置いてきたが、今年からは営業プロセスに深く入り込んでいる。来年以降、顧客の数が増えてきたタイイングでカスタマーサクセスの立ち上げに注力したい。ICP設計とリソース配分の重要性を感じている。(福眞)

絹村さんも福眞さん同様、社長になって半年が経過したが、どうか?(福田)

営業責任者だった時は、今四半期や今年度の話が主だった。社長になってみて、中長期のことを考えなければならないし、様々な点でバランスを取ることを求められている。営業責任者とは異なるスキルセットが求められていることをひしひしと感じている。(絹村)


CROに求められるスキル・マインドセット

絹村さんから「営業責任者とは異なるスキルセット」という話があった。営業は新規顧客を沢山受注できるハンター的気質や嗅覚みたいなものが求められるが、CROには何が求められるのだろうか?(福田)

営業責任者の時は「いかに売るか?」ということばかりを考えていたが、CRO/CEOになってから「いかにお客様に長くご愛好いただくか?」と意識が変わった。その後、解約されたお客様の話に真摯に耳を傾けていくと「それは無理があったよなぁ」というケースがそれなりにあった。CROに求められるのは、この「売るべきお客様に届ける」というマインドセットではないか。(田口)

お客様に自社の「価値」を最大限享受してもらうどうしたら良いか、という点に真摯に取り組んでいる企業は増えてきていると感じる。(絹村)

CROは事業全体の数字を見てリソース配分やボトルネック解消への手を打つなど、「未来を読む」という側面があると思う。「数字を見る」という観点ではCFOとも近い能力が求められるが、大きく異なるのはCFOは「過去の実績に対する管理」が主であるのに対し、CROは「過去の実績をベースに未来を予測してリソース配置していく」ことを求められていると感じる。(福眞)


組織間の壁を壊すために

様々な組織を束ねようとするとぶち当たる壁が、個人目標達成に向けた活動と組織間のサイロのジレンマ。具体的には、営業は「売上目標」を達成するために、理想的な顧客でなくても売ろうとする。一方、「更新率」などの目標を背負っているCSMからすると、なんでそんな所に売るの?と組織間の壁ができてしまう。ここはどう解消するのが良いと思うか?(福田)

まず組織としての大きな共通KGIと、各部門単位で持つ中間KPIの両方をバランスよく管理することが重要だと思う。最近のSaaSだと解約率と共にNRR (Net Revenue Retention) を共通KGIとして見るケースが増えてきている印象がある。(絹村)

逆に福田さんに質問したい。『THE MODEL』に「後工程の人間が、お客様の情報を前工程にフィードバックしていくことが重要」という記載があった。これも部門の壁を壊す一つのやり方ではないか?(田口)

ここはその通りで、実は色々な部門の人が入り乱れて会話をしたり、部門ごとに重なり合う「のりしろ」のような遊びを持つことが大切。今、日本でも注目されている「Job型」になると、どうしても自身の役割分担が明確化され、この遊びの部分が少なくなる。(福田)

以前やっていたのは、新しく営業が入社したら、受注後のポストセールスの導入・コンサルプロジェクトに入ってもらうこと。これにより、お客様がつまづくポイントや、どのように使おうとしているのか、といった営業トレーニング以上の気づきを得られたりする。「売った後の責任はカスタマーサクセス」「これはXXX部門の仕事です」と線引きするのではなく、横の領域に積極的に関わっていくことの重要性は強調したい。(福田)

ある種の「曖昧さ」を残すことが重要…、確かに。『THE MODEL』を読んで、分業を進めることが「正」と捉えてしまっている人が多い印象がある。FORCASにも「分業体制にしたけど、うまくいかない」というお悩み・ご相談は多い。(田口)

確かに分業してルール化しようとしている企業は多いが、そう簡単にカッチリ決められるものではない。企業経営は「生もの」なので、どうしても臨機応変に動かざるを得ないケースも多い。そうした中で、組織間の信頼関係が築けてくると、全体最適な動きを皆ができるようになってくるのではないか。(絹村さん)

サイロにならないような報酬設計も大切かもしれない。助け合う「文化」も大切だが、報酬設計が曖昧だと人はそう簡単に動いてくれない。(福眞)


2. 収益を最大化させるため、レベニュー各組織に必要なこととは?

ICPの設計:ターゲット設定に加え、マネジメントシステムによる「振り返り」も重要

前半にも話をしたが、まずはICPの設計が出発点。これを行う上で企業データベース、FORCASのようなソリューションは欠かせない。よく「リードの質が悪い」という言葉を聞くが、主観が多い。自分たちの決めたICPに合致しているか否か?で判断すべき。日本企業ではターゲット顧客を明確にセットするようになってきているものか?(福田)

レベニュー戦略の最初の「ICPの設定」と最後の「マネジメントシステム」をきっちり決めて管理しているお客様はビジネスをうまく管理している印象がある。ただし、ターゲット設定をマーケティングだけ、営業だけ、など単一部門で決めている会社がまだまだ多い印象。部門横断でターゲットを合意することが重要。また、「マネジメントシステム」については、リード→受注までの実績を見て、「ターゲット顧客から受注できているのか?」「ICP設定は正しかったのか?」という振り返りが出来ていないケースがまだ散見される。(田口)

非常に興味深いが、うまく回している会社ではプロセスの全体を管理し、リソース配分しているのは誰なのか?どの部門が見ているのか?(福田)

規模によって変わるかもしれない。スタートアップだと経営層が多い。大企業だと営業企画・営業推進部門などがしっかり旗振りできていると、うまくいっている。(田口)

なお、「ターゲット顧客は?」と聞くと「全方位です」と回答するような企業もまだ存在する。外資企業では「ターゲット=全方位」みたいな会社はないのか?(田口)

基本的には「ターゲットは決めよう」というスタンスは取っていると思う。ただし、実行がともなわず、「商談機会があればどこでも攻めてしまう」というケースはよくある。なお、私はオラクル→セールスフォース→マルケトと、規模の小さい、しかも古巣の競合に転職し続けた。リソースも限られていたので、狙いを集中させないと大企業(古巣)には勝てなかった。この「制約」は、自身にとってターゲットを絞り込む重要性に気付くよいきっかけになった。(福田)

視聴者から「ターゲット設定はどこまで細かくやるべきか?」という質問も来ている。これはどうか?(田口)

事業規模やフェーズによって異なる。XactlyやGainsightのような日本ではまだ小さな立ち上げ期だと、アプローチできる領域が限られる。FORCASや日系大企業だとその前提は変わってくる。一つ意識すべきは「自分たちのリソースはいきなり10倍にはならない」という点。これも制約。ここを考慮しながら、どこまでやれるべきかを考えるべき。選定軸としては業種、部門、ユースケースなどがあり得る。マルケトではB2Bと熟慮購買型のB2C(高額商材や金融商材など)にフォーカスしていた。(福田)

セールスオペレーション:主観と客観のバランスが肝

前半部で福眞さんから「CROにはCFO的な役割も求められる」という話があった。営業フォーキャストの重要性は日本の市場では理解して貰えているか?(福田)

経営層は、決算発表にも直結するので営業フォーキャストの重要性は理解している。しかし、階層が下がっていくとフォーキャストに対する意識は低い印象がある。SFA/CRMを導入し、営業プロセスの見える化は進んできたが、その先の「どの程度で着地するのか?」という点は、経験と勘だのみの会社がまだまだ多い。(福眞)

営業フォーキャストはリソース配分を考える上では非常に重要な要素。フォーキャストが見込みを下回ってしまうと投資家や市場からはネガティブに見られて財務に跳ね返ってくる。一方、コンサバに読んでしまうと「もっとアクセル踏めたはずなのに」という機会損失になりかねない。フォーキャストのレベルが上がれば上がるほど、経営のレベルは上がる。外資系だとXactlyやClariのような専門のフォーキャストツールを使うのが当たり前になっている。(福田)

日系企業の多くは、まだ営業マネジャーが鉛筆をなめて営業フォーキャストの数字をコールしている。本来は一人ひとりの営業担当者も強く意識すべきだと思う。(福眞)

「フォーキャストに課題はない」という企業も多いのだが、ふたを開けてみると、単に業績が伸びていないケースもあったり。また、THE MODEL型といって分業体制をとる会社では、ファネル型でコンバージョン率をベースに売上予測をしていたりする。しかし、これはずっとは続かないし、大きな案件のマネジメント意識が希薄なケースも。(福田)

ちょうどタイムリーに視聴者からオンラインで質問を頂いている。「フォーキャストは、営業マネジャーの経験や勘といった「主観」から、商談情報などの「客観」データを元にするようにシフトしていくことが重要だと思うが、これがうまくいっている例などはあるか?」という質問。(福田)

某外資大手ITでは長年、フォーキャストツールのAIと人間のフォーキャストの精度が競われていたそうで、結果AIの方が精度が高かったらしい。商談情報を沢山食わせれば、正確なフォーキャストはこうしたツールが代行してくれる世界になっていくのではないか。ただ、勿論データだけでは見えない主観の部分も大切で、そこはVSではなくANDで見ていくことが重要。(福眞)

「主観」は確かに重要。分業の話とも似ているのだが、「客観」のゼロイチで決められることなどない。ツールなどの力も借りて客観データを揃えながらも、色々な人の主観も踏まえ、総合的に判断していくことが実は重要。(福田)

カスタマーサクセス:自らの役割を超えて積極的に口を出す

カスタマーサクセスという用語はだんだん市場に浸透してきた印象があるが、その目的はどう捉えているか?(福田)

CSの目的はNRRの最大化(=既顧客からの売上最大化)と捉えている。昨年、Gainsight社の『Pulse』という年次イベントに参加したのだが、参加者の8割が「CSのゴールはNRR最大化」と話されていた。(絹村)

『Pulse』の中でもう一つ印象的だったのは、CSM(Customer Success Manager)が受注前の商談プロセスに首を突っ込んでいるケースが増えてきている点。本当に自社の価値を提供できるお客様なのかを、上流工程に首を突っ込んで確認している。これも分業体制の壁・弊害を超えようとする動きだと思う。(絹村)

ICPを決めるプロセスにおいても、CSMが果たす役割は大きいと思う。どんな議論を、誰とすべきか?(福田)

田口さんの話とも重なるが、営業やマーケの一存でICPを決めてはいけないと思う。やはりレベニュープロセスに関わる全部門のキーマンで議論が必要。(絹村)

話し合って決められればベストだが、どうしても各部門の思惑が出てきて意見がぶつかることはある。そこで意思決定する人としてCROが出てきた背景がある。(福田)

また、分業体制下におけるCSのよくある課題として、「売った後のプロセスは全部CSMでよろしく」と丸投げされるケース。契約更新からアップ/クロスセルといった営業的役割に加え、お客様の活用支援やスキル向上、コミュニティ活動など技術的側面やマーケ的側面まで求められるケースもあり、スーパーマンでないと対応できない印象がある。CS内の分業はどう考えているか?(福田)

自社の製品特性や顧客属性、事業の立ち上げフェーズなど、前提の違いによってCSMに求められる能力は変わってくる。どうしても労働集約的に、「個人の力」で何とかしようとしている企業が散見されるがそれは無理。Gainsightのようなツールを活用しながらも、営業的側面をカバーする担当、技術的側面をカバーする人など、チーム内の担当者の強み・弱みを考慮した役割分担も考えるべき。(絹村)

イベントに参加して:所感

改めて、ビジネスマネジメントにおける「バランス」の重要性を感じることのできたイベントでした。

一人で何でもやることの限界から「分業」がはじまりました。しかし、分業が行き過ぎるとサイロになるので、組織の壁を壊すような連携やKGI/KPI、報奨制度が必要になったり、CROという役割が登場してきました。

フォーキャストの所でも現場マネジャーの経験や勘に頼らず、客観データを元にすべき、という話がある一方、「客観」だけに依存するのではなく様々な関係者の「主観」も重要という話もありました。これも一つのバランスだと思います。

NRRを最大化するためにカスタマーサクセスとしては上流工程に口出しすべき、という話もありましたが、これも行き過ぎると売上成長を阻害するリスクもありそうです。

イベントの中に出てきた「曖昧さ」「遊び」といったキーワードが私にとっては心に残りました。全体と個別の視点を行き来しながら関係者で会話を絶やさず、ある程度の曖昧さや遊びを残し、バランスを取りながら全体最適を目指していくことが、これからの事業マネジメントに求められることを痛感したイベントでした。

2023-03-16

SaaS × レベニュー組織戦略 – イベントレポート(前編)


THE MODEL著者に聞く「レベニュー組織戦略」とは

こんにちは。Japan Cloudの鶴原です。昨年12月12日に、ユーザベース様主催で『SaaS × レベニュー組織戦略- 事業収益を最大化させる新・THE MODEL実践-』というオフラインの座談会イベントを実施しました。ここにはFORCAS事業の田口CEOや弊社代表の福田に加え、同じJapan CloudグループであるXactly 福眞社長や、Gainsight 絹村社長もスピーカーとして参加しました。

当日は応募総数100名強が集まる盛況なイベントになったのですが、ここに参加できなかった方からの数多くのご要望を受け、2月20日に同内容の座談会をオンラインで開催する運びとなりました。

https://www.forcas.com/event/0273-seminar/

このオンラインイベントも約2,000名のお申込みをいただき、大変好評だったこともあり、12月・2月で話された内容のエッセンスをギュッとブログコンテンツにまとめてみました。内容盛り沢山だったので前後編の2回に分かれますが、ご興味ある方は是非ご一読下さい。

まず、第一部として ”THE MODEL著者に聞く、「レベニュー組織戦略」とは” というタイトルで、福田がプレゼンを実施しました。


レベニュー組織とは?

「レベニュー」というと外資特有の横文字単語と思われてしまうかもしれない。しかし、私たちが関わっているSaaS業界においては、一般的な「売上」を示しているわけではなく、日本語にするのが少し難しい概念。

過去において、売上=営業の新規受注であった。しかし、SaaSのようなモデルが出てくると、売上に占める新規の割合は減り、既存顧客からの契約更新やアップ/クロスセルの比率が大きくなっていく。すると売上を管理するためには営業だけでなく、売った後のカスタマーサクセスや、これに加えて営業の手前のマーケティング・インサイドセールスのプロセスも見ていく必要が出てきた。これらを一気通貫したプロセスを「レベニュープロセス」と言ったり、その管理を「レベニューマネジメント」と言ったりしている。

こうした流れの中で各プロセスのKPIが明確化され、分業が進んだ。しかし、分業が進むとサイロになり、社内でのコンフリクトが起きるようになる。その結果(2012~13年頃)、こうしたプロセスを一気通貫して束ねる役割として「CRO (Chief Revenue Officer) 」のような役職が出てきた。

世の中の多くの企業は、プロセスをどう分業していくのか。分業による弊害をどうマネジメントするのか、という所に目が行きがち。私にもそうした相談がよく来る。しかし、本来は実行プロセスを考える前に「戦略とリソース配分」をしっかりと考えなければならない。これが出来ていないため、以下のような弊害が散見される。

  • 獲得したリードを等しくフォローしようとする
  • エンタープライズ向けと言いつつ、商談規模はSMBと大差がない
  • インサイドセールスとカスタマーサクセスの人数が過度に多い
  • 中盤以降の商談に時間をかけ、初期ステージの見込み案件フォローを怠る
  • 翌期以降の数字の積上げよりも、目の前の数字を優先する
  • 会いやすい既存顧客へ足を運び、新規発掘に時間を割かない
  • 今の売上構成に合わせてリソース配分し、将来の成長分野への投資を怠る

リソース配分を考えるためのステップ

『THE MODEL』は分業の本と捉えられがちだが、実際はリソース配分をテーマにした本。私自身、「経営=リソース配分」と捉えている。

「分業ありき」で考えると、どうしてもどの部署に何人配置するか?という視点で考えてしまう。しかし、以下のようなステップでリソース配分を考えていくことが重要。

  1. 全てのプロセスを営業一人だけでやった場合にどうなるか?を想像する
    (一人で全てカバーできれば、それがある種の理想形だが現実はそうはいかない)
  2. 全体のファネルを見渡した時、どこが一番手薄になっているか?
  3. 他への悪影響を最小化しつつ、手薄なところをカバーする方法は何か?
    (カバーするのは人か?ITか?人の場合はどういう能力を持った人が適任か?)

ここが実は私が『THE MODEL』の中で伝えたかった根幹部分。


GTM戦略とは?

GTM (Go-To-Market) 戦略とは、「中長期で獲得すべき市場を定義し、どこから、どのような順番で攻略していくかを決めること」と私は定義している。

売上100億円を目指すにも、5,000万円の商談を200社受注するのか、100万円の商談で1万社の受注を目指すのか、その中間を狙うか?など様々なルートがあり得る。どのルートを辿るかによって、組織の体制も変わってくるはず。

多くの会社がファネル型で数多くのリードを獲得し、そこに対してフォローするインバウンド型アプローチを志向しがちだが、このアプローチは長くは続かない。また、どうしても本来のターゲット顧客ではないが、金額が大きそうな案件に飛びつくような弊害も起きる。

「営業を科学する」と言うが、これは営業トークを磨いたり、プロセス管理をすることではない。どこに、どれだけの人を配置するか?というテリトリ設計の話だと捉えている。業種・地域・企業規模・購買傾向・過去の商談生成の状況など、さまざまな変数を考慮し、どこに、どれだけのリソース配分をするか、が一番科学すべきポイント。

この考え方に立脚すると、まず出発点は顧客DBの構築と、ICP (Ideal Customer Profile) = 理想的な顧客プロファイルを決めること。ここが出発点。そこから逆算して活動を決めていくことになる。この点では田口さんが率いているFORCASは非常に良いツール。


レベニュー戦略の第一歩はICPの設計から

出発点は「ICPの設計」という話をしたが、レベニュー戦略には5つのステップがある。出発点は「ICPの設計」。その後に「デマンドジェネレーション」。ターゲットに、どのようなメッセージで訴求し認知を上げていくのか?どうリードを獲得していくのか?という部分。

次に来るのが「セールスオペレーション」。ここで先ほど述べたテリトリー設計や報奨設計、人員配置、営業のカルチャーや採用などが含まれる。

その後、「カスタマーサクセス」のプロセスでCSM部門の顧客カバレッジ体制や役割分担を定義し、最後にプロセス全体をチェック・管理していくための「マネジメントシステム」づくり、という順番になる。

本日はこの主要プロセスを埋めていくソリューションを提供している各社の事業責任者が集まっている。第二部では、FORCAS事業CEOの田口さん、Xactly社長の福眞さん、Gainsight社長の絹村さんを交えて、このプロセス全体を一気通貫でみることの重要性や、「収益最大化」に向けて重要なポイントについてお話を伺っていきたい。

後編はこちら

2023-03-08

Braze株式会社の代表取締役・菊地 真之氏、第5回 リーダーに訊く!前編 
〜日本の市場を最も熟知し、組織に新たな「プラス1」をもたらす――「Culture add」を意識し、マーケット拡大を推進〜

Japan Cloud関連会社の魅力、特徴をお伝えするリーダーインタビュー企画。5回目に登場するのはBraze(ブレイズ)株式会社 代表取締役社長・菊地真之 (Max Kikuchi) 氏です。

本社は2011年、米国・ニューヨークに設立。「消費者とブランドとの間に心触れ合うつながり (Human Connection) を築く」をミッションに、消費者とブランドの間のインタラクションを強化する統合型カスタマーエンゲージメントプラットフォームを展開。Great Place to Work誌の「Fortune's 2022 Best Workplaces in New York」「Fortune's 2022 Best Workplace for Millennials」「2021 UK Best Workplaces for Women」に認定されるなど、世界で高い評価を得ています。

日本法人のBraze株式会社は、2020年10月、Braze社とJapan Cloudの合弁企業として設立が発表され、翌月、菊地氏が代表に就任。初年度よりメジャークライアントの契約が続々と決まるなど、急成長を遂げています。ファーストネームにちなんで、「MAXさん」と親しみを持って呼ばれる菊地氏に、前編では社長就任のきっかけと、右肩上がりの成長を支える原動力についてうかがいます。(後編はこちらから)


LinkedInでの“人違い”の友達申請がキャリアチェンジの発端!?

――インテック、SAPジャパン、アドビなど、IT業界で15年以上のキャリアを経て、外資系スタートアップの社長というキャリアチェンジを決意された経緯について教えてください。

菊地 実は、発端となったのはうっかりミスによる“人違い”でした。

――人違い?

菊地 今でもはっきり覚えているのですが、外出先で歩きながらLinkedInを見ていて、表示された友人に友達申請をするつもりが、うっかり隣の人に申請を出してしまった。それが、ジャパン・クラウド・コンサルティング社長の福田康隆さんです。謝りのメッセージを送る前に秒速で承認をいただき友達申請にOKをいただきました(苦笑)。セレンディピティのような始まりです。

これまでも、デジタルマーケティングのソリューションを扱った経験はありましたが、調べていくほどに、Brazeは新時代のマーケティングを切り拓くツールになりうるという確信を得ました。
モバイルアプリの普及によって、より“人間らしい”コミュニケーションが求められる中、リアルタイムかつ一貫性のあるブランド体験を提供するという点で、非常にケイパビリティが高い。Brazeのイノベーションを日本で展開することで、日本のマーケット全体のトップライン伸長に貢献できるのではないか。そんな思いからBraze日本立ち上げを決意しました。


今の日本は4年前の米国 ― 仮説に基づく「タイムマシン経営」で急成長を遂げる


――デジタル時代らしい出会いというのか、そんなハプニングが生んだ経営トップへの就任ですが、躊躇やためらいはなかったのでしょうか。また、何が選考の決め手になったとお考えでしょうか。

菊地 社会人になった時のキャリア観としては、インディビデュアル・コントリビューターとして営業やSEの分野で専門性を発揮できればいいと思っていました。考えを変える契機になったのが、アドビでデジタルエクスペリエンス事業にて戦略顧客担当チームを統括した経験です。

“ナイアガラの滝”のようなすさまじいスピード感でいろんな物事が進んでいく会社で、チームを率い、自分1人ではなしえないターゲットをクリアしていく面白さと、チームワークならではの仕事の醍醐味を体感し、その集大成として社長業を経験するのもいいチャレンジではないかと考えたのです。

Brazeに関心を持ち本社メンバーとの会話で実感したのは、Brazeは、「Culture Fit(社風に合う人か?)」ではなく、「Culture Add(会社に変化をもたらしてくれる人か?)」を重視した組織だということです。ダイバシティーに富み、理念を元に積極的に動き、クリエイティビティを大切にして革新をもたらすような組織づくりです。Brazeは「Culture Add」、つまりBrazeに新しいどんな「プラス1」をもたらす人間なのかを多角的な視点から見ていたと感じます。これは、私自身が立ち上げメンバーの採用インタビューをする立場になって、その重要性を再認識した大きな学びです。

そのようなダイバーシティ&インクルージョンの企業文化が根付いているBrazeは、本社から日本展開についても、「あれをやれ、これをやれ」といったオーダーはなかったように感じます。CEOからは「日本のビジネスの熟知しているプロフェッショナルはMaxだけだ」「私はアドバイスはできるが、全てはあなたがどう行動したいかだ。」と言われたのを今でも鮮明におぼえています。Brazeの中で、唯一、日本の文化、マーケットを知っている「プラス1」の人間として、マーケットをどうグロースし、そのためにはどういった組織構造、ビジネスモデルが必要なのか必死に考えた記憶があります。そして、こちらから意見を提案し、対話を重ね、アクションを起こしていきました。

そのうえで、本社メンバーへのアドバイスとして求めたのが、「4年前にBrazeは米国で何をやって急成長を成し遂げたのか」という点です。マーケティングDX普及率という観点で、私として今の日本は4年前の米国市場と極めて類似している、ととらえました。

その仮説に基づくならば、4年前のBrazeのGTM戦略を徹底的に学び倒し、当時の米国本社がやっていた成功方程式を上手くスライドすることに、日本市場で成功を収めるヒントがあると考えました。ソフトバンクの孫正義さんが言う「タイムマシン経営」ですね。
無論、米国のやり方をそのまま持ってくるのではなく、日本社会の直面している課題やチャレンジや、モバイルコミュニケーションの環境、メッセージングのツールの違いなどを踏まえた日本市場へのローカライズも並行して実施し、GTMをマッシュアップさせていきました。

日本企業における顧客理解への意識の高まりも受け、米国市場の成功法則に日本市場の独自性を掛け合わせることで、1期目からネット経済メディアのNewsPicks、日本最大級のコスメサイトの@cosme、ケンタッキーフライドチキン、日経新聞、サンドラッグ (敬称略)などから契約をいただき、現在、社員数は約40名、お客様企業数は約50社、日本国内でBrazeからメッセージを受け取る月間ユーザ数 (MAU) は1億1000を超えています。

私1人から会社をスタートし、想定以上の急成長を遂げることができたのは、日本市場に向けたBraze本社のサポート、多くの米国のエンタープライズ企業の日本進出の知見を持つJapan Cloudのベストプラクティスの支えがあったからこそで、これも他の外資系企業とは異なるメリットだと思います。

そして、世界最高峰のデジタルソリューションを基に、バックアップを受けながら、自分の力でGo To Marketをドライブし、優秀なメンバーを採用し、急成長を実現していく。こうした体験ができるのも、当社のような外資系スタートアップだからこそだと自負しています。

Brazeの社員インタビューや動画など採用情報はこちら

2023-03-08

Braze株式会社の代表取締役・菊地 真之氏、第5回 リーダーに訊く!後編 
〜目指すはチーム「アベンジャーズ」。社員1人ひとりのプロフェッショナリティとチームワークで急成長を実現していく〜

Japan Cloud関連会社の魅力、特徴をお伝えするリーダーインタビュー企画。5回目に登場するBraze(ブレイズ)株式会社 代表取締役社長・菊地真之氏の後編では、目指す組織のあり方、求める人材像についてうかがいます。
前編はこちらから)


1人のカリスマよりコラボレーションの活性化こそがレジリエンスな組織を実現

――Japan Cloudとの合弁会社ならではの利点も生かしながら、菊地さんは、どのような会社にしたいと考え、チームを率いていらっしゃるのかお聞かせください。

菊地 社長就任前からずっと言っているのは、「『アベンジャーズ』のようなチームにしたい」ということです。家族や友達ではないけれど、Brazeの理念に共感し集まった社員一人ひとりがプロフェッショナリティを持ち、かつそれを上回るチームワークを持って、一丸となって日本の市場を開拓していく。そんな組織体を作っていきたいと考えています。

外資系というと、「激しい社内競争を強いられる弱肉強食な企業風土」をイメージする方もいるかもしれませんが、今では米国においても従業員との長期間に渡るエンゲージメントと育成計画の提供を重視する傾向が高まっています。

テクノロジーは想像を超えるスピードで進化し、1人のスーパーエンジニアがすべてのテクノロジーを理解し開発することは不可能であり、1人のカリスマ的な人間が業績全体をけん引するような時代でもありません。

もっと言うと、いかに優れたソリューションを擁していても、従業員とのエンゲージメントが醸成されていないカルチャーの企業は大きく成功することはできない。愛される会社として、市場に認知されることは難しいといえるでしょう。

当社では、設立当時から、社員全員の力を結集してこそ、ターゲットを達成することができるというモデルを標準化していくべく、採用についてはプロフェッショナリティよりチームワーカーであることを重視してきました。多様性を大切に、コラボレーションの活性化に力点を置くことこそが、Brazeの総和として、レジリエンスな組織の実現につながると考えています。


ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンをBraze日本法人でも推進。パートナー制度、不妊治療や養子縁組等へのサポートなど社会的課題にも取り組む

――採用活動に当たっては、「エンプロイーエンゲージメント」にも注力されているとうかがいました。

菊地 1人ひとりの社員が、Brazeの社員として、さらに人としても評価されるような組織体を目指しています。その観点では、社員が目指すキャリアや実現したいライフプランも可能な限り尊重したい。そのこだわりとして、未来を創る子ども世代が早い時期からデジタルスキルを学べるようなボランティア活動への積極参加や、SGDsのような社会的課題への取り組みにも注力しています。

その一つがパートナー制度で、社員のパートナーの慶弔に際しての休暇や見舞金などについては、入籍に関係なく制度の適用を受けられるようにしています。
日本法人の設立当初からは、不妊治療や養子縁組へのサポート制度を構築し従業員を支援しています。米国本社も黒人起業家への支援など、社会的課題に意識が高い企業です。私自身、大学時代に国際政治学を学んでいた経緯もあって、子どもに関わる日本ならではの課題解決に、会社として貢献していきたいと考えています。

――採用については、先に挙げたチームワーカーとしての素養に加え、どんな方に来てほしい、一緒に成長していきたいとお考えですか。

菊地 ダイナミックな変化を楽しめ、変化を作っていける、また、マーケットをグロースしていくことに興味関心がある方にはぜひジョインしていただきたいですね。

また、急成長を遂げているといっても、まだ40名程度の小さな組織に過ぎず、リソースとして「これがない」「あれが足りない」と言っていたら切りがありません。「ないこと」を楽しんで、改善につなげていけるような課題解決能力が高い人はエンジョイできる環境だと思います。

もう一点、申し上げたいのは、外資系スタートアップというと、若い世代が中心の会社だと捉えられがちですが、そんなことはありません。当社には、最年長は68歳のメンバーから最年少は20代前半まで、多様な世代、バックボーンの社員が活躍しています。
必ずしもデジタルに精通していなくても、お互いの学びを共有しあうナレッジシェアの会など勉強の場も設けていますので、「学ぶ」意欲を持っている方ならばウェルカムです。

――今後の展望についても教えてください。

菊地 この2年間は、想定以上の成長曲線を実現してきましたが、直近の目標はあと3年以内に日本でマーケットシェアNo.1を取ること。そして、せっかく40人もの社員が同じ船に乗ってくれたわけですから、このチームでしかなしえない“歴史”を作りたい。その羅針盤を指し示すのが自身のミッションと捉えています。

日本企業とそこで働くマーケターの皆さんの成長を支援し、「ニッポンのマーケティングを変えたい」と考えている方、ぜひ一緒に新しい歴史を作っていきませんか。

Brazeの社員インタビューや動画など採用情報はこちら



オススメの本

『MADE IN JAPAN――わが体験的国際戦略』 盛田昭夫・エドウィン ラインゴールド著 朝日新聞社
SONY創業者の1人、盛田昭夫氏の本です。大学1年生の時に読んで、間違いなく今の自分の考え方を形作った1冊ですね。日本製=粗悪品、海外製品の猿真似と言われた時代に、そのイメージを払拭すべく戦い、経営=マーケティングを体現した一人者だと思います。いち早くグローバルに打って出た経営者として、今も尊敬しています。

『おざわせんせい』 博報堂「おざわせんせい」編集委員会著 集英社インターナショナル
広告代理店・博報堂で数々のヒット広告やブランドを作り上げてきたクリエイティブディレクター・小沢正光氏の格言集です。クリエイティブを支える言葉の力、表現力の重要性に気付かされる本ですね。「調査しないと分からない、というマーケは、クビ」「説得には20秒いる。コマーシャルには5秒足りない。だから、メッセージ・映像・音が必要」など、ハッとさせられる言葉が並び、折に触れて読み返しています。

『キャパの十字架』 沢木耕太郎著 文藝春秋
『深夜特急』、『テロルの決算』など、数々の著作を生み出しているノンフィクションの名手による、戦場カメラマンの第一人者、ロバート・キャパを追った1冊です。キャパの作品であり、フォトジャーナリズムの世界で最高峰といわれる「崩れ落ちる兵士」の真偽、キャパの恋人との物語が展開されます。著者の現地での粘り強い取材姿勢、キャパへの熱い思いに心が動かされます。

『ポップス歌手の耐えられない軽さ』桑田佳祐著  文藝春秋
「頭もアソコも元気なうちに、言いたいことを言っておきたい!」という思いを出発点に『週刊文春』で連載したエッセイに加筆し、一冊にまとめたものです。実は、サザンが大好きでコンサートにも足を運んでいます。人間ってエロティシズムとアーティスティックな心を忘れたら終わりだな、と痛感させられます (笑)

2023-01-20

富士通版 THE MODEL 構築に向けて 〜富士通デジタルセールス部門のオフサイトに参加〜


富士通デジタルセールス統括部のオフサイトに参加

皆さん、こんにちはJapan Cloudの鶴原です。

昨年12月某日、富士通グローバルマーケティング本部デジタルセールス統括部の友廣さんにお声がけいただき、弊社代表の福田が同部門オフサイトに登壇いたしました。

「日系大企業でもTHE MODELは通用するのか?」という論点の座談会で、多くの読者にとっても興味のある内容のお話かと思います。今回はその様子をレポートします。

友廣さんは私のマイクロソフト時代の同僚でして、マイクロソフトの後、SAPでマーケティングやインサイドセールスの立ち上げを経た後、富士通でデジタルセールス部門を率いておられます。約2年で3名だったメンバーが約50名へ拡大されたそうで、組織文化の違いもかなりあるだろう中、昔の仲間がこうして活躍されていることにとても刺激を受けました。

当日は同部門の月一度のオフサイト日で、会場40名、オンライン20名の約60名が参加され、とても活気にあふれていました。以下、友廣さんからの問いかけに福田が回答する形での座談会の様子をお届けします。


先発完投型の営業組織にTHE MODELは馴染むのか?
富士通の営業は典型的な先発完投型。分業に対する猜疑心がある。改めてTHE MODELの意義について伺いたい。

もちろん一人で全てのプロセスを完結できる方が良い。しかし、規模が大きくなるにつれて一人でできることには限界がある。いつか必ず漏れ・抜けやウィークポイントが出てくる。その穴がどこか?をまず知る必要がある。

そして、その穴を人で埋めるのか?テクノロジーで埋めるのか?判断が必要。よくあるケースは、やることが増えて皆が多忙になり、人手で埋めようとするパターン。人はマシンではないから当然得手不得手があるし、能力も一定ではない。テクノロジーの活用で埋められるケースも実は多い。

人で穴を埋める際、どこで役割を区切るのか、という判断も重要になる。そこでプロセス上のボトルネックを発見する事が重要になり、そのためのアプローチが「THE MODEL」の本来の考え方。そのような思考アプローチをSaaS企業におけるマーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスという分業スタイルがどのように産まれたかを例に説明したものだが、多くの人は順番を取り違えている。自社のプロセスと役割分担ができたらJOB型という形で役割分担をする。「分業」と聞くとどうしても「サイロ」など、ネガティブなイメージを持たれがちだが、英語ではSpecialization(専門化)と言い、もっとポジティブなイメージ。


「複数商材」や「人」が売り物でもTHE MODELは適用できる?

富士通の売り物は単一商材ではないし、SaaSでもない。売っているのは、いわば「人」。よってTHE MODELはフィットしない、という声も社内で耳にする。ここはどう思うか?


会社や商材によって業務プロセスは異なる。なので、マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスという役割分担自体が富士通さんに当てはまるかは分からない。しかし、単一商材か複数商材か、という点は余り関係ないと思う。

何かを「売る」ことを考えた場合、4つの「不」を解消する必要がある。不信・不要・不適・不急。これを一つひとつ解消していくプロセスは必ず必要になるし、それをベースに分業体制を考えることは可能ではないか。逆に「一人で全てをカバーすることが現実的なのか」と問いかけをしてみる事。


インサイドセールスの存在意義は?
富士通でもデジタルセールス(インサイドセールス)が立ち上がって2年が経ち、組織も急拡大している。しかし、富士通においては営業こそが花形で、インサイドセールスに強い存在意義を感じられていないメンバーもいる。改めてインサイドセールスの意義とは?

以下、3つの意義があると思う。

1) お客様の「インサイト」獲得

米国勤務の時代に初めて現地のインサイドセールスチームを見ていて感じたのは、「お客様のインサイトを最も得られる部門だな」という点。

従来型の営業であれば、担当顧客が決まっていたり、一日あたりの訪問件数も数件が限界。一方、インサイドセールスははるかに多くの会社・部門の方と会話ができる。そこから得られる「知見」は何ものにも代えられない会社の財産。さらにマーケティングオートメーションが導入されていれば、事前に属性だけでなく行動情報も把握した状態で、的を絞った会話をする事で闇雲なアプローチでなく生産的な会話ができる。


2) 会社の「顔」

見込顧客が最初に接する相手がインサイドセールスになる。それゆえ、その会社の第一印象はインサイドセールスによって決まると言っても過言ではない。

これはマルケト時代にもインサイドセールスに口酸っぱく言っていた。「会社の顔」として、一人ひとりの話し方、立ち振る舞いが非常に重要。


3) お客様にとっての「メリット」

インサイドセールスはお客様にとってもメリットが大きい。自分が客の立場になってみると分かるが、お客様は営業が足しげく来訪することを決して望んではいない。

適切なタイミングで、コンパクトに欲しい情報を、短時間で提供してくれるインサイドセールスは、お客様にとっても「ありがたい」存在。「訪問すること」がお客様にとって一番メリットがあるわけではない。

3点目の「リアルに来られると迷惑」という点は納得。一方で「電話=押し売り」と思われる傾向もあると思うが、ここはどう考えられているか?


確かに全く購入意思がなかったり、検討もしていない商材の売込みが電話できたらうっとうしい。

だからこそ、いつどの企業にどのような情報をもってコンタクトすべきかをデータを活用してアプローチする事が必要になる。

先日米国のセールスイネーブルメント関連の人と会話したが、米国では一気にオフィス回帰の流れが強まっている。社員同士の対面でのコミュニケーションを重視しているからだが、営業に対しては「オフィスに来ないでくれ=オンラインで済ませてくれ」という要望が根強いようだ。そこで「デジタルセールスへの移行」が大きなトレンドになっている。

これは単にリモート会議のツールを活用した営業活動というだけではなく、ミーティング後の資料提供も動画形式で共有したり、顧客内で誰に共有されたかをトラッキングできるようにするなど、デジタルの特長を活用した営業手法。この流れは日本も同じではないか。その点で富士通のデジタルセールスチームには大きな可能性があると感じる。


外資と日系の違いは?
自分自身は外資の後、日系企業に入り、いろいろな違いを感じている。ここは福田さんから見てどう考えられているか?


日系の方と話していると、外資に対して「人・モノ・金のリソースが潤沢にある」という印象を持たれている方が多い気がする。しかし、実際にはリソース配分については厳しくレビューが行われる。しかし「リソースが限られる」という制約があることが重要だ。

人間は制約があって、はじめて工夫するようになる。私は「経営=リソース配分」と捉えている。今、ちょうどJapan Cloudの各ポートフォリオ企業は来年度のプランニングが始まっているタイミングなのだが、制約がある中、どういうリソース配分をするのが最適か?何をやるべきか、やらないべきかというトレードオフを突き詰めて考えている。

米国のSaaS企業は少し前まで、好況を背景にこの規律が欠落している企業が多かった。制約が無くなると人は考えなくなってしまい、会社は成長することができない。

日系の方のお話を聞くと、売上構成比の大きな既存アカウントに多くの人数を割り当てる一方で、新規事業にはあまり人を割り当てない、新卒に実験的に担当させてみるなどの話をよく聞く。

しかし、既に関係性のできている大型既存顧客には、そこまでリソースを割かなくても良いのではないか。むしろ将来の成長領域である新規事業を立ち上げるためには、一時的にでもトップ級の人材に任せるべきではなどリソース配分について再考する余地があるのではないかと感じる事も多い。

💡
これは耳が痛い。古今東西、営業は既に関係構築できている行きやすい所に行ってしまう。だからこそ、新規に特化したインサイドは重要。ここも自分達の存在価値だと思う。

最後に 〜チームへのメッセージ
この2年間、チームメンバー皆、走り続けてきた。正直、変革疲れもある。何か背中を押してくれるようなメッセージをいただけないか。


私は「Journey is the reward」という言葉が好き。物事を変えるのには時間がかかるが、その過程を経験することこそが財産になる。花開く瞬間に立ち会うのも素晴らしいが、その前の積み重ねがなければ花は開かないと思えば、その積み重ねをする人だけが真の達成感を味わえるとも言える。

ちょうどサッカーのW杯が盛り上がっているが、私がはじめて見たサッカーW杯は86年メキシコ。当時の日本はベスト8どころか出場自体「出られるわけない」と思われていた。野茂がメジャーリーグに挑戦した時も同様。しかし、今は大谷翔平がメジャーを席巻している。

変革・改革をする最初のメンバーは限られる。皆さんはまさにその当事者。プロセスができた後に入ってくる人は、できあがったものを享受する人たち。プロセスを作っていける経験は貴重。それを楽しんで下さい。

2023-01-12

年頭所感

明けましておめでとうございます。2022年の後半から、コロナで大きな打撃を受けた外食、旅行などの業界ではコロナ前の状況に戻りつつあります。一方で、IT業界に目を向けると、特にSaaSについては国内外共に株価・企業価値の下落が多くの会社で見られました。また海外では年末から年始にかけて、大手企業でのレイオフがニュースとして取り上げられ、ここ十年近く続いた右肩上がりの成長から様相が一変したと感じられる方も多いのではないでしょうか。昨年末、海外から来日したある会社の経営メンバーと食事をした時に「自分たちはこのような節目を何度か経験してきているが、今の若い人たちは急成長しているフェーズしか知らないので動揺している人が多い。それだけ自分たちが年をとったという事なのかな」と話していました。

私も今年で社会人27年目を迎えることとなり、その間、景気後退という点ではドットコムバブルやリーマンショックなどいくつかの節目を経験しています。経験を積む事のメリットは短期的な事象に惑わされず、中長期的な視点で物事を考えられる点にあります。最近SaaSに関する将来性を聞かれた時には「SaaSというカテゴリがどうなるかはわからない。一口にSaaSと言っても課金形態など含めて変化し続けている。SaaSはあくまでもソフトウェアの提供形態に過ぎない。一方で企業向けソフトウェアの市場は、一時的な景気後退の影響を受けることはあっても中長期には企業の生産性向上や変革に不可欠なものであり、引き続き強い成長分野だと確信している」と答えています。私はこれまでの経験から、以下の2点をある種の法則として捉えています。

  • 物事は振り子のように動く。ある方向に大きく振れたら、必ず揺り戻しがくる。多くの人がそれが永遠に続くと信じて疑わないモードになった時が、揺り戻しがくるタイミング。
  • 一見大きなトレンドに見えても、長いスパンでみれば一過性の流行に過ぎないものがほとんどで、本当の意味でゲームのルールが変わるような変革は、変化の激しいIT業界でも15年くらいのスパンでしか起きない。

まずIT業界では一定のサイクルで統合と分散が繰り返されています。私が社会人になったころはメインフレームからクライアントサーバーへの大転換期でしたが、このようなテクノロジー面でのシフトは定期的に揺り戻しがおきます。また大手企業が買収によって巨大化・寡占化が進んでいくと、もう新規参入者には入る隙がないのではと思ってしまいますが、ある領域に特化したスタートアップがどんどん現れて、既存市場のリプレースだけではなく新しい市場を創造していきます。これは2000年代前半に企業向けソフトウェアの世界ではSAP, Oracle, IBM, Microsoftなどいくつかのベンダーが買収統合を繰り返し「もうこれらのトップベンダー以外にはチャンスがない」と思われたにも関わらず、salesforce, ServiceNow, Workdayをはじめとする多くのSaaS企業が登場し、それらの会社がまた買収統合を繰り返して大きくなっているという流れを見てもわかると思います。そして同じことはまた繰り返されるはずです。

あくまでも私個人の考えですが、これから数年の間に、今主力となるプレーヤーを将来凌駕するような新しい勢力が次々と誕生する時代を迎えることになると予想します。2023年は改めて海外への渡航回数も増やし、アンテナを張ってこれから起きる波を捉えていきたいと思います。ただしJapan Cloudに求められる役割は「次の何か」を見つける事だけではありません。それを正しく日本に伝えて、正しく普及させるための人材や仕組みを提供する事です。どんなに優秀な人を集めても、テクノロジーや製品が優れていなければ成功を収めることはできません。一方でせっかく素晴らしい製品があったとしても、優秀な人材や仕組み、経営がなければ失敗してしまいます。私たちJapan Cloudは次を担う人材の採用と育成に加えてオペレーションをより高度化させていき、次の世代へそれを伝えていく仕事に取り組んでいきたいと思います。

引き続きJapan Cloudと関連各社の動向にご注目ください。

Japan Cloud 福田康隆

2022-12-23

2022年を振り返ってJapan Cloudから感謝をこめて

Japan Cloudでは今年、Mirakl、PagerDuty、Gainsightの3社が新たにパートナー企業に加わり、現在は合計11社、320人以上のメンバーに参加いただく規模となりました。

2022年のJapan Cloudの成長と成功に貢献いただいたパートナー企業様、お客様、アドバイザー、従業員の皆様とその家族、すべての人に感謝の意を表し、1年の締めくくりとしたいと思います。


2022年Japan Cloud Community

Japan Cloudは、パートナー企業各社が日本での事業展開を拡大する中で、互いに共有し、学び合うコミュニティです。Japan Cloud Playbooks、Executive Development Program、CEO Club Meetings、オフサイトなど、パートナー企業のポートフォリオが拡大するにつれ、ますます価値を高めてきていると確信しています。企業同士、従業員同士が協力し、日本におけるオペレーショナル・エクセレンスとカスタマー・サクセスを追求する場が創れてきたことに誇りに思っています。
Japan Cloudは、今年一年を通じて、営業、BDR、マーケティング、人事/オフィス業務、FP&Aなど様々な分野でのベストプラクティス共有セッションを数多く開催しました。また、9月には、Japan Cloud Community イベントを開催。130人(うち50人オンライン)の参加者が集いました。イベントでは、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、人事などの分野の事例やベストプラクティスを共有し、専門外の活動についてもCommunityとして共有することができました。また、12月上旬には恒例の年末ホリデーパーティーを開催し、100人以上の参加者が集い、プレゼンテーション、ゲーム、賞品、さまざまなグループにまたがるセッションが行われました。最後に、2023年に向けての抱負をメンバーから募り、Japan Cloudのオフィスに飾らせていただきました。


2023年に向けて

来年に向けて、Japan Cloudは引き続き卓越したGTMの実行目指していきたいと思います。これは、(1) GTMPlaybooksを追加・強化し、ベストプラクティス共有セッションや育成プログラムを継続すること、(2) コアバイヤーグループ(CFOオフィス、CMO、CIO、DevOps、ITOpsバイヤー)との関係を強化すること、(3)最高の人材を惹きつけ育成していくための場を創ること、を意味しています。

Bessemer Venture PartnersのByron Deeterの言葉を借りると、「私たちが見ているのは、ビジネスの根本的なリプラットフォームです」。 日本のビジネスのReplatformは、私たちのパートナーが行うものです。 パートナー企業がお客様に約束したことを実現できるようにすることが、私たちJapan Cloudの仕事です。

2023年、私たちは新しいパートナー企業、そしてさらに100人のメンバーをJapan Cloud Communityに迎えることを期待しています。日本企業の「Replatform」に貢献し、よりオープンでアジャイルな、そしてグローバルな競争力を持つ企業サポートをしてきたいと考えています。の

アレン、福田、そして私は、これから更に成長していくであろうJapan Cloudが持つ学びの機会について考えるとき、大きな喜びを感じるとともに、Japan Cloudに信頼を寄せていただいているパートナー企業の皆様に、計り知れない感謝の気持ちを抱いています。 そして、Japan Cloudに信頼を寄せてくださっているメンバー一同に、心から感謝申し上げます。

Japan Cloud アルナ バスナヤケ

2022-12-23

「Japan Cloud Holiday Party 2022」関連11社がリアルに集結!リレーションを強化しシナジーを促進

こんにちは、Japan Cloud Consultingシニアマーケティングコンサルタントの橋本智子です。この12月、全11社のJapan Cloud関連会社が集結するホリデーパーティーを、はじめてオフライン開催しました。100名以上が参加し大いに盛り上がったパーティーの様子をレポートします。


オフラインでの会話とコミュニケーションを!

Japan Cloudは、世界トップクラスのB2B SaaSカンパニーの日本市場進出を支援しています。関連会社数11社・総社員数が300名を超えた2022年、新型コロナウイルス感染症に配慮しながら開催されたホリデーパーティーは想像以上の熱気に包まれました!

今回のパーティーは、各社のメンバーが交流を通して活発に情報交換し、シナジーを促進して成長を後押しするきっかけとなるよう企画されたものです。これまでも、前回9月に実施したMeet-upなど、同じ外資系スタートアップとしてチャレンジするメンバー同士が、組織を越えて経験やノウハウを共有できる交流会や勉強会の機会を設けてきました。Japan Cloudでは、関連会社の横の連携を強める活動をサポートしています。

パーティーの冒頭、Japan Cloud Computing CEOのアルナ・バスナヤケから次のようにスピーチがありました。

Japan Cloudというコミュニティは長期的なものです。Japan Cloudは、ビジョンとして、みなさんの会社が1-2年の短期間ではなく、5-10年の長期間に渡り成功し続けることを目指しサポートしいます。そして、私たちの成長は、会社や皆さん自身だけでなく日本の産業の成長につながると信じています。また、Japan Cloudでの経験が皆さんのキャリアにとって有益なものであり、このような場での会社間の連携で、学び、成長してほしいと考えています。

私は多様性を奨励しています。性別の違いだけでなく多様な国籍や様々な考え方を持つ多様な人材を求めています。考え方次第で私たちは変わることができます。私たちは日本に変革をもたらすことができると信じています。テクノロジーで日本の産業を変えようとしている企業は多くの課題を抱えています。皆さんはそれを解決できるはずです。

ご存知のように、私は対面でのコミュニケーションが大好きです。いつもオフィスにいますし、夕方になればラウンジエリアにいます。ぜひいつでも会いに来てください。」(アルナ)


急成長を続ける関連会社で活性化する活動

続いて、Japan Cloud Consulting代表取締役社長の福田康隆より、Japan Cloudの歴史とともに、関連会社の全体概要について次のようなプレゼンテーションがありました。

「Japan Cloudは、業務アプリケーションからテクノロジーやバーティカルなど過去の知見をうまく生かしながらカバー範囲を広げてきました。ありがたいことに、複数の経営者に、『世に数多あるソリューションのうち、Japan Cloudがサポートしている企業であれば信頼できる』といってくださっています。今後も海外の経営陣とコミュニケーションを密にし、よりよいソリューションを選択することで信頼を得られるブランドづくりをしていきたいと考えます。また、各関連会社ソリューションを関連立てて価値提供できればと思いますので、その上でも、このような場でみなさんとの交流を深めていきたいと思います。」(福田)


また、NewRelicとPagerDutyの会社紹介では、それぞれの代表から会社概要の説明があり、ソリューションへの理解を深めました。

NewRelic 代表取締役社長 小西真一朗 氏

PagerDuty 代表取締役社長 山根伸行​​氏


組織を越えた交流を後押し

関連会社横断で、社員のボランティア活動を推奨している当社ですが、『おにぎりアクション』の報告もありました。これは“おにぎり”の写真をSNSに投稿すると、アフリカ・アジアの子どもたちに給食をプレゼントできるという仕組みです。Japan Cloudのラウンジでおにぎりを食べながら貢献しよう!という企画や各社の取り組みに加え、グローバルメンバーにも活動が波及し、多くの笑顔がおにぎりとともに投稿されました!

また、様々な関連会社のメンバーとJapan Cloud代表 福田が同席し、ランチをしながらお互いの会社の理解を深め、ヒントを得たり横の連携を強化させていったりするための企画では、半年で2回実施ができました。



相互理解と知見のシェアで広がる可能性

会の後半では、サンタクロースに扮した社員による乾杯とともに、チームビルディングとして、自己紹介を兼ねたゲームを実施しました。会社混合で着席したテーブルメンバーで「共通点」を探し、もっとも意外性のある共通点を見つけたチームが勝ちというルールです。初対面のテーブルも多い中、「テーブルの全員の母親が日本芸能の師範」「テーブルの全員が身長171cm」といった意外な共通点を発見するなど、会話が弾み親睦が深まっていた様子です。

その後は組織の枠を超えて交流の時間に。マーケティング、営業、カスタマーサクセス、エンジニア、サポートなど、ロールごとに共通の話題で話が弾んだり、お互いの課題を共有したりするシーンが会場各所で見られました。社長同士の意見交換もあり、今後のビジネスでのコラボレーションにつながりそうな予感があります。

最後には、賞品やシャンパンのプレゼントなどもあり、大変盛り上がりました。

12月の寒さを吹き飛ばす熱気があふれていたパーティー。壁には、来年2023年の抱負が寄せられ、士気を高めました。

終了後に寄せられた参加者の感想を一部ご紹介いたします。

「他の会社の人と深い交流ができました」
「ゲームでかなり盛り上がった。ただ自己紹介するよりも仲良くなれますね」
「他のポートフォリオ企業とのネットワークが広がって良かった」
「ロールごとに集まれて嬉しかったです」
「このような会を通じ、横のつながりが広がるのは素晴らしいと思いました」

今回はオンラインではできない雑談や海外からきているメンバー同士の交流ができたことも、大きな収穫だったと感じています。
これからも関連会社のネットワークとコミュニティの相乗効果を最大限にビジネスに活かせるよう、メンバー同士の交流やリレーションを強化させる場を積極的に設けていきます。

みなさま、よい年末年始をお過ごしください。

Happy Holidays!

2022-12-16

New Relic株式会社の代表取締役・小西真一朗氏、第4回 リーダーに訊く!後編
〜「1日1つでも新しいことに触れ、1mmでも成長する意識を大事に、謙虚に学び、進む道を自ら創れる人と一緒に働きたい」〜

Japan Cloudやその関連会社の魅力、特徴をお伝えするべくスタートしたリーダーインタビュー。4回目はNew Relic株式会社の代表取締役・小西真一朗氏です。後編では、同社の成長を支える企業風土をさらに深掘りし、背景にある小西氏の考え、一緒に働きたいと考える人材についても語ってもらいました。
(前編はこちらから)


「成功より成長」「他人が決めた目標より自分の意思」「勝ち負けより利他」

――記事の前編で、「学校のような会社を創りたい」というお話がありました。即戦力を求めるような、一般的な外資系スタートアップのイメージとは異なる経営スタイル、組織のあり方を掲げるに至ったきっかけがあったのでしょうか。

小西 ポイントの1つに、セールスフォースでマネジャーとしてあまりいい結果を残せなかった反省があります。最も大きな反省点は、私自身がトップセールスを達成していたため、自分にできて当然のことが、メンバーにとって当然ではないということになかなか気づけなかったことです。

「小西さんが現場に来てくれると助かるけど、再現性が難しいんですよ」と、率直に言ってくれるメンバーがいて、初めてそうか、と。だからこそ、社長になるにあたっては、みんなが学び成長し続けられる会社にしたいと考えたのです。また、「やってはいけない」ことだけを規律として決め、それ以外は自由にしているのも、上司の顔色をうかがうことを優先し、思考にブレーキをかけることのないようにするためです。

2つ目として、私個人がキャリアの浮き沈みを経験する中で、内省し、とらわれていた“呪詛”のようなものから解放され、得た気づきが挙げられます。

会社員時代を振り返ると、「失敗は許されない。人生の勝者にならなくてはいけない」「会社が決めた目標を達成することこそが営業マンのミッション」「組織の中で勝たねばならない」といった、成功や勝ち負けにこだわっていた時期がありました。

しかし、失敗や挫折を経て内省し、「成長を楽しみながら悠然と生きればいいじゃないか」、「魂まで売っちゃダメだ。何が成功かは自らの意思で決めよう」「利他の姿勢で人の役に立つことを優先しよう。そのほうが楽しい」という考え方を持つに至ったのです。

無論、幸せの定義は人それぞれですが、「成功より成長」「他人が決めた目標より自分の意思」「組織内での勝ち負けより利他」を掲げることで、ビジネスマンとしても、人間としても幸せになれるのではないかと考え、会社のあり方にしてもこれらを全面に打ち出し、社員にも日ごろから伝えています。

「利他」の精神は、私も含めたリーダーに向けたものです。
CEOというと、一般的には「Chief Executive Officer」の略で、日本語では「最高経営責任者」を意味しますが、私自身は「Chief Enablement&Empowerment Officer」、つまりCEOとは社員の力を引き出し、力を与える責任者という意識で捉えています。

部下を持つリーダー社員にも、“上司”ではなく“執事”であれと伝え、「部下の成功こそが自分の成功」と捉え、「困っていることがあれば、先回りしてサポートする」「社内にゴミが落ちていたら率先して拾う」ことなどを伝えています。

「そんなやり方で肝心の業績につながるの?」と、きれいごとのように捉える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、会社のパフォーマンスは、社員一人一人の成長、能力の合算から形成されます。
では、社員一人一人が、潜在能力を最大限に発揮できている会社がどれだけあるかというと、そう多くはないのではないでしょうか。生産性の低さをカバーするために、大量の人材を採用していたのでは、コスト効率からも決してベストなやり方とは思えません。

社長を始めリーダーが“サーバントリーダーシップ”を大事にし、必要なサポートをする。適切なトレーニングやOJTで社員全員のスキルを伸ばし、正しいアクションと習慣をティーチングしていく。そういった蓄積こそが目に見える成果につながる。結果的に会社の成長に向けた早道だと考えています。


仕事は1人では完結しない。他のメンバーと“バトンの受け渡し”が大事

――一般的な外資系スタートアップとは異なる、Japan Cloudの関連会社としての立ち位置の特徴、魅力についても教えてください。

小西 一般的な外資系日本法人の社長は、日本市場の営業ノルマに責任を持つ、“営業部長”に近いカントリーマネジャーとしての役目を求められることが多いと思います。つまり、追いかける数字はARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)となる。しかし、ゼロからスタートした創業1年目で売上や収益を上げていくのは至難の技です。日本を主語にしたバジェットにも限界があり、目指す企業風土の醸成といったことは後回しになりがちです。

その点では、Japan Cloudの関連会社という立場で、日本法人トップとして中長期的視点でビジネスの基盤の構築に取り組み、売上以外のKPIを念頭に様々な経営判断ができることは大きなポイントであり、成長のロードマップを自分の中で計算できることは有効な仕組みだと考えています。

また、外資系企業への転職について相談を受ける機会もたびたびありますが、提示されている高額な年収額に惑わされず、「条件面について、しっかり確認したほうがいい」とアドバイスをしています。営業マンであれば、“南極で氷を売れるような人”が求められているケースも多くあります。仕事を通じて自分が輝きたい、成長したいと考えるならば、働く環境やサポート体制を吟味し、慎重に考えることが重要だと思います。


――どんな人と働き、さらなる成長を目指していきたいか。求める人材についても教えてください。

小西 大前提として、1つ目に今まで話したような目指す会社のあり方について共感してもらえるか。2つ目として、これだけは誰にも負けないという分野、あるいは負けたくないという気持ちを持っている方がいいですね。社員数がまだまだ少ない中で、自分が“前に出る”ことを恐れない強い気持ちを持ってほしい。

3つ目は、「やってはいけない規律」以外はチャレンジを求める風土なので、「レールがないなら自分で作ります」という意気込みを持っている人が向いていると思います。

4つ目として、当社には1人で解決・完了する仕事は存在しません。営業力にいくら自信がある人でも、そのきっかけを作ってくれるマーケティングやインサイドセールス、その後のカスタマーサクセスの支えがあってこそ、ビジネスは前に進むものです。
手と手をつなぎ、他のメンバーに感謝の気持ちと敬意を払い、バトンの受け渡しが上手にできる人にぜひ来ていただきたいですね。

私自身、長年、大事にしている習慣として、1日1個でも新しいものに触れ、1mmでもいいから成長することを課しています。
日々、好奇心を持って謙虚な姿勢で学びたい、成長したいと考えている人、ぜひ一緒にNew Relicの新しいステージを創っていきませんか。お待ちしています。


「書中の師」をたくさん持とう! 小西さんのオススメ本

自称「読書の虫」の小西さん。年間100冊読破を目標に、読む領域が偏らないよう読んだ本を分野ごとに分けて整理するリストを作り、新たな発見と気づき、自身の成長につなげています。
「私の好きな言葉に、『書中の師』があります。どんな分野でもいいですが、本をたくさん読み、本の中に出てくる“師匠”を多く持つことが、幅広い学びにつながります」(小西さん)。

挙げてもらったのはオススメ本の一部。「美=美しい文体に触れる」「炎=自分の心に炎を燃やす」「知=知識を吸収する」「眺=世界から日本を俯瞰して見る」「飛=SFや宇宙など果てしない分野に脳みそを飛ばし、アイデアにつなげる」といった分野ごとに12冊をリストアップしました。ぜひ参考にしてください。

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2022-12-15

New Relic株式会社の代表取締役・小西真一朗氏、第4回 リーダーに訊く!前編 
〜「“軍隊”ではなく成長を楽しめる“学校”のような企業カルチャーを醸成し、会社としての成長を加速化していく」〜

Japan Cloudやその関連会社の魅力、特徴をお伝えするべくスタートしたリーダーインタビュー。4回目はNew Relic(ニューレリック)株式会社の代表取締役・小西真一朗氏です。

本社は2008年、米国・サンフランシスコに設立。デジタルビジネスのあらゆる指標を観測可能にするオブザーバビリティプラットフォーム「New Relic」を提供。ソフトウェアのリアルタイムパフォーマンス分析のリーディングカンパニーとして「Fortune100」企業の過半数が導入するなど、グローバルで高い支持を得ています。
New Relic社とJapan Cloudの合弁企業として設立された日本法人・New Relic株式会社は2018年8月に設立され、同年11月、小西氏が代表取締役に就任しました。
Japan Cloudの関連会社の中で、設立5期目という“先輩格”に当たる同社。メンバーがたった1人という設立時から経営トップを担ってきた小西氏に、前編では外資系日本法人の社長就任を決意した理由、4年間の軌跡について振り返ってもらいました。


メンバー集めに奔走した1年目から4年目で成長スピードが2~3倍に加速化

――既に世界ではAPM(アプリケーションパフォーマンス管理)のソリューションとしてデファクトスタンダードのポジションを得ているNew Relicですが、日本では本格上陸して5年目。市場の広がりについてどう見ていらっしゃいますか。

小西 現在、日本のお客様がエンタープライズ企業を中心に600社ほど、エンジニアのユーザー数は約1万人、勉強会やウェビナーのご参加など、何らかの形で当社にアクセスしてくださっているエンジニア数では約10万人となっています。日本のエンジニア数が約100万人なので、実際のユーザー数ではエンジニア全体の1%、接点を持ってくださっている人は約10%と、4年間で順調に支持を伸ばしています。
日本における顕著な動きとしては、コロナ禍などによる事業環境の変化も受け、伝統的な大手メーカーや小売業などが、自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のためだけでなく、顧客向けの新たなデジタルサービス、高品質なユーザー体験を提供するために、当社のソリューションを導入されるケースが増えています。
業種業界関係なく、多くの企業が生き残りをかけ、新たなソフトウェアサービスを創出していく動きは今後も加速化していくでしょう。急速に発展、変容を遂げていくマーケットにあって、現在のシェアや顧客数は、あくまでも1つの通過点であり、投資家も私たちもさらに長期的視点で会社の成長を見据え、事業を進めています。

――なるほど、日本では、これからが本格的な市場拡大のフェーズに入っていくということですね。小西さんは、前職ではセールスフォース・ドットコム(現在セールスフォース・ジャパン)で2年連続トップセールスを務め、最年少で営業部長に就任されるなど、順調にキャリアを構築し、リーダーシップポジションを担ってきたとうかがっています。そのキャリアを離れ、社長就任を決意された理由を教えてください。

小西 誤解されがちですが、自身のキャリアを振り返ると、決して順風満帆だったわけではありません。最初に入社したコンサルティングファームのアクセンチュアを経て、次に参画したITコンサルティングの国内ベンチャーではリーマンショックで思うように事業を伸ばすことができず、挫折感も味わいました。セールスフォース時代も個人ではトップセールスを達成したものの、リーダーとしてはチームの成果創出にあまり貢献できず、自分を見失った時期もありました。
New Relic社長就任は、ジャパン・クラウド・コンサルティング社長の福田康隆さんに声をかけていただいたのがきっかけですが、当時は絶頂期というより、どちらかといえば不安を抱えていた時期に当たります。
それでも数か月の選考期間を経て、候補者の中から選出いただいた。「幸運の女神の前髪を掴め」などと言われますが、「社長になれる機会が目の前を通り過ぎることはそうない。ならば掴んでみるべきではないか」と決意しました。
結果的には、辛酸をなめた失敗や挫折感から得た気づきこそが、今の会社経営に活きていると感じています。


やってはいけない「規律」を設定。いいプロセスから、いい結果は導かれる

――Japan Cloudの関連会社の中でも、設立から5期目と“先輩格”に当たります。4年間で注力されてきたこと、自身の経営に対する考え方や組織のあり方などで変わったこと、変わっていないことについても教えていただけますか。

小西 1年目はとにかくメンバー集めに奔走しました。また、本社のメンバーと目線をすり合わせる上で、積極的に本社の“CxO”メンバーに会って日本法人に求める方向性、「どういうNew Relicにしてほしくないか」といったヒアリング活動も実践しました。
New Relicが掲げるビジョンは、「More Perfect Software(お客様のデジタルビジネスをより完璧なものにすること)」。その観点から、当社としても一部のデジタルネイティブなIT企業やエンジニア向けではなく、業種業界に関係なく日本の多くのエンタープライズ企業がDXを進める上で抱える重要課題を解決し、戦略的なプラットフォームとして広く活用いただくことを目標としてきました。

1年目は私1人だったので大変でしたが、エンタープライズ市場に知見を持つメンバーを集め、2年目ぐらいから黒字化のフェーズに入り、4年目を終え、成長スピードが2~3倍に加速しています。外部環境の追い風に加え、メンバーが増え、知見、ベストプラクティスが蓄積してきたことが大きいですね。
現在、社員数は70名超となり、組織の枠組みやコンプライアンス体制の構築など、会社が成長していく過程で、変わるべくして変わってきた部分はあります。
ただし、自身が経営者として意識していることは設立時からほぼ変わっていません。
新入社員の面接時、最初の研修で、会社の目指す姿として、いつも言っていることは大きく2つあります。
1つは、「成長を楽しめる会社にする」ということ。軍隊のように上司が言われた通りに部下が動く会社ではなく、学校のような会社を創りたい。社員全員が、たくさんの学習機会と実験機会を得られ、日常的に成長実感を得られる会社にしたいと伝えています。
具体的には、毎週月曜に開催する「All-Hands(全社ミーティング)」では、みんなが先生であり生徒であるというスタイルで、学び合うトレーニングを実践。月1回、顧客と全社員が交流し合う会も社員主導で開催しています。四半期に一度開催されるNRUG(New Relic User Group:お客様から成る運営メンバーにより運営いただいています)にNew Relicも参加させていただき、ユーザーの皆様のお声から学びを得ています。
2つ目が、守ってほしい規律について。規律といっても一般的な作業マニュアルではなく、当社では「これだけはやらないでほしい」といういわゆる“ブラックリスト”を掲げ、それ以外は何をやってもいいというスタイルです。逆に言えば、いい数字さえ挙げれば何をやってもいいわけではなく、いいプロセスがあってこそいい結果がついてくるものです。

この「学ぶ姿勢」と「規律」という2つだけを守り、実践していけば、仕事人として顧客や社会に真摯に向き合い、学び合い、成長を目指していく、理想とする企業文化の醸成につながっていくのではないかと考えています。

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