【インサイドセールス勉強会】メッセージング戦略入門 - 難しいソリューションの価値を言語化する力を磨く
Japan Cloud
2025年6月某日、Japan Cloudオフィス(六本木ミッドタウン)にて、インサイドセールス・BDR(Business Development Representative)を対象とした勉強会が開催されました。今回のテーマは「難しいソリューションをわかりやすく伝えるメッセージング戦略」。SaaS企業の事業立ち上げを支援してきたJapan Cloudの鶴原鉄兵が登壇し、関連会社10社から集まった約20名の若手・中堅BDRメンバーが参加しました。
SaaSの「価値」を伝えるために──マーケティングとは何かを再定義する
「マーケティングって何だと思いますか?」
セッション冒頭、鶴原氏の問いかけに、会場には少し戸惑いの空気が流れました。 「リードを増やす」「広告を打つ」「LPを改善する」──多くの人が思い浮かべる活動とは少し違う、根源的な問い。
紹介されたのは、ドラッカー、コトラー、レビットといった巨匠たちの言葉。
- 「マーケティングの役割は、販売の必要性をなくすことである」(ピーター・ドラッカー)
- 「個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである」(フィリップ・コトラー)
- 「マーケティングとは、顧客の創造である」(セオドア・レビット)
- 『顧客に買ってもらえる仕組み』 を作ること(グロービス)
つまり、営業ががんばって“売り込む”のではなく、顧客が自然と“買いたくなる”状態をどう作るか──これがマーケティングの本質であり、今日のテーマ「メッセージング」にもつながる最重要視点なのです。
誰に、なぜ、何を、どうやって伝えるか──ターゲティングとポジショニング
メッセージング戦略を考える上で、最初に立ち返るべきは「誰に届けるのか?」という問い。いわゆる「ICP(Ideal Customer Profile)」です。
Japan Cloudがこれまで多くのSaaS企業の立ち上げを支援する中で重視してきたのは、「売りやすい顧客」よりも、「自社の価値を代弁してくれる顧客」を見つけること。たとえば、初期フェーズの製品力が発展途上でも、信頼して導入し、社内外に発信してくれる“マーケティングパートナー”のような存在です 。 また、参加者には「自社のICPを即答できますか?」という問いも投げかけられました。従来の属性データに加え、行動データ(セミナー参加履歴、Webタグ、IR情報など)を活用した“意味あるかたまり”の切り出し方が紹介されました。
マーケティングの出発点 ― STP-4Pで構造的に考える
研修の冒頭では、「STP-4P」はマーケティングの基本中の基本であるということが改めて強調されました。しかし実際の業務において、これを意識的に活用できている人はまだ少ないという指摘もありました。
STP(Segmentation / Targeting / Positioning)は、「誰に、何を、どのように伝えるか」を構造的に設計する思考プロセスです。
- Segmentation(市場を切る):顧客を同質性のあるグループに分類し、自社が注力すべき市場を見極めます。
- Targeting(ターゲットを絞る):その中でも特に収益性・優位性が見込めるセグメントに集中。ここが特に重要とされました。
- Positioning(訴求ポイントを明確にする):選んだターゲットに対し、競合と差別化できる「訴求メッセージ」を設計します。
これらを踏まえた上で、4P(Product, Price, Place, Promotion)、つまり具体的なマーケティング施策の整合性をとっていくことが求められます。
重要なのは、STPで決めた方向性と、4Pで展開する施策が一致しているか。その整合性が「外的一貫性(STP)」と「内的一貫性(4P)」の両面で保たれているかどうかが、成功するマーケティングの鍵となります。
ターゲット選定の精度が勝負を分ける ―「3つの問い」と「6Rフレームワーク」
STPの中でも、特に重要とされたのが Targeting(ターゲット選定) のプロセスです。限られたリソースの中で、どの顧客に注力すべきかを見誤ると、すべての活動が空回りする危険があります。
そこで提示されたのが、「3つの問い」によるターゲット評価の視点です:
- 儲かりそうか?(Customer視点)
- 勝てそうか?(Competitor視点)
- できそうか?(Company視点)
この3つの問いに対して、より具体的な判断を支援するフレームとして 6R が紹介されました:
- Realistic Scale(市場規模)
- Rate of Growth(成長性)
- Ripple Effect(波及効果)
- Rival(競合状況)
- Reach(到達可能性)
- Response(測定可能性)
特に注目されたのは「Ripple Effect(波及効果)」の視点です。小さなターゲットでも、その導入が他社への波及、業界への影響力拡大につながる可能性がある顧客は、積極的に狙うべきとされました。
キーメッセージは構造で考える:「Message House」フレームワーク
ターゲティングした相手に、どう響くメッセージを届けるか。その答えとして紹介されたのが、「Message House」のフレームワークです。 このモデルは、メッセージを1つの「家」に見立て、以下のように整理するものです:
- 屋根(Umbrella Statement):「自社の価値を一言で表すと何か?」(What our Value?)
- 柱(Core Message):
- どんな課題を解決するのか(Why Anything?)
- 他社と何が違うのか(Why Us?)
- なぜ今必要なのか(Why Now?)
このフレームに基づいて、参加者は自社サービスについて個人ワークを実施。「なぜ今この課題に取り組まなければならないのか」を語るには、顧客の業界トレンド、競合状況、中期経営計画などを調べ、顧客自身の言葉で語ることが重要とされました 。
“価値”は相対的なもの──「なぜ私たちか?」を証明する方法
「なぜ御社なんですか?」という質問は、営業にとって最も厳しく、答えにくい問いの一つです。そこで紹介されたのが「ロゴ(導入実績)の意図的な使い方」。 例えば、大手企業での採用実績に加え、急成長スタートアップでの導入事例を並べることで、「B2Bの重厚感」と「イノベーション感」の両方を印象づける──といった見せ方が挙げられました。 さらに、「良さそうだが、今じゃなくても…」という反応を防ぐためには、「なぜ今取り組まなければならないのか?」(Why Now?)という要素も不可欠。業界トレンド、制度変更、予算枠の状況など、具体的かつ顧客文脈に即した“今”の理由が必要です。
ワークショップと発表──メッセージの「言語化」と「受け手視点」

後半は、参加者が自ら作成したキーメッセージをもとに、グループ内で発表し合うセッション。他社の伝え方を聞くことで、自社の伝え方の“クセ”や“思い込み”に気づくことができたと、多くの参加者が語っていました。
伝える=コンテンツ × デリバリー
セッションの締めくくりでは、鶴原氏が次のように語りました。
「伝える力とは、内容(コンテンツ)だけでなく、どう届けるか(デリバリー)も含めて考えるべきです」
- スライドは「1枚=1メッセージ」で構成する
- 顧客の言葉を使い、横文字を減らす
- 視線誘導や声のトーンで感情にも訴える
情熱は前のめりに、でも丁寧さと謙虚さを忘れず
“何を伝えるか”だけでなく、“どう伝えるか”──それこそが、BDRに求められる本当のメッセージング力です。
参加者の声:価値の再定義と実務への応用
勉強会終了後のアンケートでは、多くの参加者が「自社の価値を顧客視点で整理する重要性」に気づいたと語りました。
「自社のソリューションを自分の言葉で表現することで、伝えるべき本質が見えた」「普段の業務で使っていた概念が、実は体系的なフレームワークに基づいていたことを理解できた」といった声が多く寄せられました。
また、「ヒアリング設計やNext Actionの考え方は、すぐに活用できる」「新しいソリューションのメッセージ構築に直結する内容だった」といった、実務との接続を感じた参加者も多く見られました。
一方で、「“どう伝えるか”に特化したトレーニングも受けてみたい」といった前向きな改善提案も寄せられています。
今回の勉強会は、メッセージングの学びにとどまらず、BDRが自社の価値を再定義し、より戦略的に顧客と向き合う契機となりました。
おわりに:BDRの役割は「価値の翻訳者」であること
今回のセッションを通じて再認識されたのは、BDRは単なるアポ獲得部隊ではなく、自社の価値を翻訳し、最初の接点で魅力を伝える「戦略的な存在」であるということです。
Japan Cloudでは、THE MODELに基づいた営業・マーケティングプロセスの再現性強化と、各社BDRのスキルアップを両立させるために、今後も定期的にこうした実践型セッションを開催していきます。
今後の予定には、「競合と差別化するための仮説構築」「顧客へのヒアリング技術」などをテーマにしたセッションも予定されています。BDRというキャリアに磨きをかけたい方、Japan Cloudのコミュニティで実践的に学びたい方は、ぜひ次回以降の勉強会にもご注目ください。