Blogs

コミュニティ

2025.07.18

市場のない市場をつくる ─ 新カテゴリ創出の最前線 - Japan Cloud Leaders Summit 2025 イベントレポート②

Japan Cloud

新たな常識を創るイノベーターたち:未開の市場を耕す挑戦

Japan Cloud Leaders Summit in Karuizawa、Day1では、オープニングセッションに続き、各社社長によるパネルディスカッションを3つ実施しました。今回は、1つ目のセッション「市場のない市場をつくる ─ 新カテゴリ創出の最前線」の内容をお届けします。既存の概念にとらわれず、文字通り「市場そのもの」を切り拓いてきた3名のリーダーが登壇、その挑戦の軌跡と戦略を語り合いました。

登壇者

  •  nCino 野村 逸紀 / Mirakl 佐藤 恭平 / Gainsight 絹村 悠
  • Japan Cloud 福田 康隆

本セッションのトークテーマ

  1. 市場にまだ理解されないコンセプトをどうメッセージングして、カテゴリ認知を高めたのか?
  2. 初期の顧客獲得における工夫は?最初の数社に導入のために、どのような施策を打ったのか?
  3. 営業から社長への変化とチャレンジとは?10年前を振り返って若手営業へのメッセージ

各社トップが語るカテゴリ創造のリアル

1. 市場にまだ理解されないコンセプトをどうメッセージングして、カテゴリ認知を高めたのか?

市場にまだ理解されていない新しいコンセプトをどう伝え、カテゴリとして認知させていったのか。各社の社長からは、試行錯誤と独自の戦略が語られました。

野村(nCino) まず「いいカルチャー、いい組織があることが大前提」であり、その上で成果を追求すべきだと思います。社員間の信頼関係なくしては戦えないという強い思いがあります。 カテゴリ認知を広める工夫としては、顧客の既存業務の真逆である「一気通貫」というキーワードを掲げ、逆張りの尖ったメッセージで認知を広めていきました。これは、単なるシステム導入ではなく、金融機関の業務プロセス全体を変革するという強いメッセージです。

佐藤(Mirakl) 日本での顧客はゼロからのスタートであり、マーケットプレイスの考え方、ビジネスモデル、実現できる世界観、コンセプトそのものを浸透させる必要がありました。その上でPR戦略は重要で、日経新聞に会社設立日に大きく取り上げてもらったのは非常に大きなポイントでした。本社が使うメッセージとはあえて大きく変え、「第3の選択肢」という言葉を独自に見出してメディアに出していったことが、結果として記者の関心を引き、大きな自信につながりました。

 効果的なメッセージングについては、根幹を作る部分には時間をかけ、同じメッセージを何度も繰り返すことが重要です。メディア、顧客、パートナー、社内に対しても、最初の1~2年間はぶらさずに同じメッセージを伝え続けました。

絹村(GainsightGainsightの場合はカスタマーサクセスというコンセプトは認知があったのですが、カスタマーサクセスのためのプラットフォームというカテゴリが存在しないところからのスタートでした。カテゴリがないとそもそも予算が確保されていないため、お客様のどの階層も共通認識を持たず、商談が全く進まないという現実に直面しました。当初はカスタマーサクセス担当者の業務上の課題に焦点を当てた提案をしていました。

しかし、経営層から見るとそれが「経営上の最重要課題」ではなく、彼らの関心は「事業ををいかに加速的に成長させるか」という点にあると分析しました。そこで、製品のポジショニングとブランディングを「レベニューグロースプラットフォーム」へと大きく転換し、事業拡大に貢献するためのノウハウとプラットフォームを全て持っているというコミュニケーションに変えたところから、ビジネスが劇的に変わりました。

2. 初期の顧客獲得における工夫は?最初の数社に導入のために、どのような施策を打ったのか?

新しいカテゴリを立ち上げる上で不可欠な、最初の顧客獲得。各社がどのように工夫し、最初の数社を導入していったのでしょうか。

野村(nCino) 初期の数社は本当に重要でした。当初は部分的な導入の提案機会も積極的に取り組んでいたものの、ある顧客との商談で大きな気づきがありました。それは、製品の機能全てを活用し、既存のプロセスやシステムを全面的に変革してもらうことで初めて、本来の製品価値が正しく大きく提供されるということです。この「正しい売り方」に営業アプローチやメッセージングを全て変更し、「大規模な変革の絵」を描いて「企業改革を進めませんか」というメッセージに切り替えたところ、複数の伝統的な金融機関で大型案件がきれいに決まったことが大きな転換点でした。 トップダウンでの導入において、ミドルマネジメント層や現場の方々の賛同を正しく得る工夫としては、経営トップ層に対して「なぜ自社製品が唯一の選択肢なのか」という大義をしっかり社内に浸透していただくことが不可欠だと考えます。また、nCinoには元金融機関出身の社員が多く、現場の業務を深く理解しお客様と信頼関係を醸成できるということは、組織としての勝利とも言えます。

佐藤(Mirakl) 初期の顧客獲得では、業界を絞り込み、ターゲットとする業界のトップ企業もしくは新規事業にチャレンジを厭わないイノベーター企業を重視しました。国内トップ企業は壁が高く攻略しづらいのではないかということはあるとおもいますが、国内トップ企業は国内に参考事例がないために、海外の成功事例を研究し参考にしています。国内トップ企業が参考にしているような海外企業を多く既存顧客に持っているMiraklのようなソリューションでは、効果的に的を得た訴求ができます。ある大手小売企業が主要顧客となったのは、彼らがマーケットプレイスの海外事例を自らリサーチし、Miraklを調査研究していたことが大きかったです。

絹村(Gainsight) SaaS企業と国内大手企業という2つの異なる市場にアプローチしていますが、SaaSマーケットでは、売上責任者を集めたラウンドテーブルやコミュニティを定期的に開催しています。その中で、「自分たちの会社も成長したらいつかGainsightを入れるんだ」というのが想起として刷り込まれているような会話が自然発生する状況を見て、転機を感じました。大手企業に対しては、いくつかの業界と特定のトップ企業を決めて取り組んだ結果、直近数ヶ月で大型案件が取れ始め、問い合わせも増加してきました。Miraklと同様、ターゲットするトップ企業をしっかり取りに行くというアプローチが奏功し、少しずつ状況が変わり始めています。

3. 営業から社長への変化とチャレンジとは?若手営業へのメッセージ

各社長が営業経験から現在のポジションに至るまでの変化や、直面したチャレンジ、そして次世代のリーダーたちへのメッセージを語っていただきました。

絹村(Gainsight) Japan Cloudが提唱する「組織のガバナンス体制」に強みを感じます。前職では、営業組織以外の部門(カスタマーサクセスやエンジニアチームなど)は「仮想チーム」としてマネージせざるを得ず、リソースの投下などをコントロールできなかったフラストレーションがありました。しかし、Japan Cloudの立ち上げモデルでは、自身の判断でエンジニアやCSMを投入したりと柔軟性を持てるダイナミックさが非常に面白いです。チャレンジとしては、本社との合意形成が重要と感じています。投資家からのプレッシャーの中で判断する本社の状況を踏まえつつ、スタートでの交渉や、日々本社と議論し日本のビジネスを理解してもらうことが自身の仕事だと改めて感じています。

佐藤(Mirakl) 株主である本社やJapan Cloudからの期待と、現場の期待という「違った期待のプレッシャー」には日々直面しています。この両方を、同時に実現していくのが難しさでもあり面白さでもあると思います。 自分が一から起業する場合は、資金調達や資本政策、それに伴うステークホルダーへの説明などに多くの労力を費やす必要があり、そのようなケースと比べると、Japan Cloudのモデルではビジネスに集中できるのは非常にありがたい環境だと思います。また、社員すべてが直属部下という点については、前職で直属ではない兼務付きの営業以外の部下をマネージした経験はあるものの、責任の重さが全く違います。社長としては「すべてが自身の責任であり、逃げ道がない」状況、楽しむと同時に責任も発生する点をどう捉えるかが非常に重要だと思います。

野村(nCino) 前職の営業部門長時代から、カルチャーを作ることが私の仕事だと考えていました。社内の利害関係者が正しく相互を理解し尊敬するような適切な文化を築けば、成果はついてくると考えています。このJapan Cloudの立ち上げ最初のフェーズでは、「カルチャーは全員で作るもの」であり、このフェーズに参画する大きな意義だと思います。共に経営するチャンスであり、経営メンバーと伴走しながら、自分がカルチャーを作る役割ということを意識に置いておくと、いざ社長という機会がきたときに躊躇なく掴むことができると思います。

福田が語る市場創造の真髄:顧客の「痛み」と「未来」を見抜く力

モデレーターを務めた福田は、3名のプレゼンテーションを受けて、市場創造というテーマをさらに深く掘り下げました。

福田(Japan Cloud)ERPやCRMのような確立されたカテゴリがあれば、お客様はそこに予算を投じ、導入を進められます。しかし、カテゴリが存在しない場合、「なぜそれが必要なのか?」という問いから始めなければならない非常に難しい状況です。今回の3社は、まさにこの「カテゴリを自ら作らなければならない」という高いハードルに挑んできた企業であり、その知見は非常に学びが大きいものです。

また、カテゴリが確立され、競合が存在するようになった段階では、「自分たちの強みと弱み、競合の強みと弱みを分析し、自分たちが強く、かつ競合が弱い領域を見極める」ポジショニング戦略が不可欠です。競合がいることは、かえって市場を大きくするチャンスにもなり得ます。一方、セオリー通りにばかり考えていると、思考が狭まることがあるため、様々な考え方や思考を持つリーダーシップを組み合わせたチームの多様性が大事だと考えます。

市場のない場所に道を切り拓くリーダーたちの話は、まさに挑戦の連続であり、その裏側にある苦労と、それを乗り越えた時の大きな喜びが鮮明に伝わってきました。次なるリーダーを目指す皆さんにとって、彼らの言葉はきっと大きな指針となることと願います。

次回は、社長パネルディスカッション「顧客基盤の広げ方 ─ 信頼構築と初期アプローチの勘所」のレポートをお届けします。どうぞご期待ください!

Japan Cloud Leaders Summit in Karuizawa 2025 イベントレポートシリーズ

①オープニング:リーダーシップの本質を問う2日間の幕開け

②社長パネルディスカッション「市場のない市場をつくる ─ 新カテゴリ創出の最前線」

③社長パネルディスカッション「顧客基盤の広げ方 ─ 信頼構築と初期アプローチの勘所」 <次回公開>

④社長パネルディスカッション「スケールの本質 ─ 企業の成長過程で見えた勝ち筋とは」

⑤To Be Updated