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2025.07.25

顧客基盤の広げ方 ─ 信頼構築と初期アプローチの勘所 - Japan Cloud Leaders Summit 2025 イベントレポート③

橋本 智子

顧客との信頼から市場を拡大する──“人”を起点に広げる経営のリアル

Japan Cloud Leaders Summit in Karuizawa、Day1 社長によるパネルディスカッション①「市場のない市場をつくる ─ 新カテゴリ創出の最前線」に続き、2つ目のセッションでは、「顧客基盤の広げ方」をテーマに、2社の社長が登壇。顧客との信頼の築き方、ネットワークの活用法、営業出身者としての進化──それぞれの等身大の体験が共有されました。

登壇者

  • BlackLine 宮﨑 盛光 / PagerDuty 山根 伸行
  • Japan Cloud 福田 康隆

本セッションのトークテーマ

  1. どのような層・会社/人物像から顧客開拓を始めたか?
  2. 初対面のキーパーソンとどう向き合うか──信頼を引き寄せる“最初の5分”
  3. 営業から社長への変化とチャレンジとは?

どのような層・会社/人物像から顧客開拓を始めたか?

CFOに会ったこともない状態からのスタートでした

宮﨑(BlackLine) 私は前職で営業部門長として、営業やマーケの領域にはそれなりの自信と経験があったものの、財務・経理の領域は完全に未経験でした。そこでまず考えたのは、「CFOの信頼を得るには、誰に信頼されればいいか?」ということでした。

私が大事にしているのは、“信頼というのは自分で作るものではなく、人が作ってくれるもの”という考え方です。自分たちでは一歩届かない相手には、“信頼されている人”に紹介してもらうことが効果的。経理財務の世界で影響力を持つ専門家、有識者、業界団体など、CFOが信頼している業界で著名な「先生的存在」のキーパーソンを訪ね歩き、丁寧に関係を築くことから始めました。

有識者の方にお願いして会食の場をつくってもらったり、ご面談終わりの5分を最大限活かして関係を築いたこともありました。こうした“信頼の第三者”を介した紹介は、通常の営業では辿り着けない層と自然に関係を築く大きな力になります。

また、CFOの方々が一番興味を持っているのは、他のCFOが何を考えているか。なので私はCFO同士の対話や会食の場を作ることにも力を入れています。CFO同士が会いたい相手をつなぐ。自分が話すより、場をつくること自体に価値がある──そんなふうに捉えています。

 

「地べたからCIOネットワークを総動員しました」

山根(PagerDuty)当社は日本進出の時点で一定数の導入実績がありましたが、業界横断型の製品という特性上、本格的な展開には新たなCIOネットワークの開拓が不可欠でした。

最初に取り組んだのは、これまでお世話になってきたCIOの方々、長年の先輩方──とにかく自分が持つあらゆるネットワークに一斉に連絡を取ることでした。1年目で自分がお客様先に行った回数は531回、50週としたら週10件以上です。そこから「紹介が紹介を呼ぶ」連鎖を生み出せるよう、小さなきっかけも見逃さず、一つひとつのご縁を丁寧につないでいきました。

さらに業界に深く根ざすため、旧知の業界人をアドバイザーとして迎えました。その方は現役を退いたものの、いまだに影響力が強く、毎月コンスタントに経営層のご紹介をいただいています。

また、経済系団体への参加を通じて、全く接点のなかった業種・経営層との交流を広げています。組織間ではなく「人と人」としてつながる関係性を意識的に築いています。

初対面のキーパーソンとどう向き合うか──信頼を引き寄せる“最初の5分”

謙虚さが扉を開く──信頼構築の第一歩

宮﨑(BlackLine)社長着任当初のご面会では、知識武装したりご提案をお持ちするのではなく、素直に「教えていただきたい、お力を借りたい」というスタンスで臨みました。そして、教えていただいたことはその後で必ず自分の言葉に変換して語る──そうした信頼構築のサイクルが徐々に顧客との対話を生み出していきました。

今でもCFOと初めて会うときは、必ず統合報告書のCFOメッセージに目を通し、キーワードを手元のノートに整理して臨みます。さらに、現場の担当者から「そのCFOは普段どんなことを話しているのか」も事前に聞いておき、個別の関心事をつかみにいきます。

さらにCFO界隈で共通認識になっているトピックも頭に入れておきます。そのために、PR会社との毎月の壁打ちミーティングを有効活用しています。CFOとの会話の中で得たインサイトを持ち寄り、世の中の潮流や市場文脈と掛け合わせながら、メッセージの方向性をチューニングしています。毎週の全社ミーティングでそれを社員に共有しアウトプットすることで、自らのインプットを全社の武器に変える工夫も続けています。

人間力で空気をつかむ

山根(PagerDuty)徹底した事前準備はもちろんですが、それ以上に重視しているのは当日の“空気を読む力”です。相手の表情や声のトーンを敏感に感じ取り、必要なら用意した資料や構成をすべて捨てて、その場で軌道修正します。

人を動かすのは、ロジカルな説明だけではありません。言葉の間や沈黙、空気感といった一瞬の反応を捉え、共感し、心に残る対話ができたとき、次の信頼が生まれる。そうした“人間力”こそが営業にとって大切だと考えています。

もう一つ意識しているのは、「事実は嘘をつかない」ということ。若い頃から、背伸びせず事実を真摯に伝えることを徹底してきました。これが、結果的に相手の信頼を得る最短距離だと思っています。

どんなに肩書きが上の方であっても臆せず、誠実かつ率直に向き合う──その姿勢自体が信頼を育てる最大の要素だと考えています。

営業から社長への変化とチャレンジとは?

「やりきる力」が、社長業の土台になる

山根(PagerDuty)社長になると、一見すると自由が増えたように思えますが、実際には判断すべき領域の幅が一気に広がり、複雑さも増します。そんな中で、ずっと大切にしているのが「GRIT – 最後までやり切る」という姿勢です。営業時代は、数字を達成するために粘り強く走り切ることがすべてでした。今は規模や責任の重さが大きくなりましたが、その本質は変わりません。やると決めたことは絶対に途中で投げず、困難があってもやり抜く──この覚悟が、社長というポジションで成果を出すための軸になっています。

もう一つ、営業時代から変わらないのは「市場とお客様を起点に考える」ということです。営業部門で培った視点を軸に、社内のマーケティング、カスタマーサクセス、サポートなど、すべての部門を連動させ、“お客様の成果”を最終目的に据える。それが、私が今もっとも意識している経営のスタイルです。それが結果として、組織を動かし、成長につながっていくと信じています。

 

成長余白を埋め続ける日々が挑戦であり醍醐味

宮﨑(BlackLine)営業から社長になって最も大きく変わったのは、自分がマネジメントする範囲が営業部門だけでなく、全社に広がったことです。お客様の課題に向き合うとき、営業だけで解決できることには限界があります。しかし今は、本社を含めた全社的な動きを作り出し、一気にお客様に価値を届けることができる──このダイナミックさこそが、社長という立場の醍醐味だと感じています。

一方で、チャレンジも多く、いまだに「慣れた」と思える瞬間はありません。前職では、経験を積むうちに「こうすれば達成できる」という感覚が身についていました。ですが、今はその“達成感”を感じることがない。それは不安でもあり、同時に成長の源でもあります。

常に「あと少しでゴールに届くかもしれない」という状態に身を置いている感覚。目標を目の前に挫けそうになることもありますが、そのギリギリの感覚こそが刺激であり、成長の証だと考えています。全く異なる領域に踏み込んだことで、成長余白は誰よりも大きいはず。だからこそ、今はその余白を埋め続ける過程を楽しみ、乗り越えることで、自分自身も会社も進化していくのだと実感しています。

営業にも経営にも正解の”型”はない

福田(Japan Cloud)営業に向いているかどうかは、豪快なタイプかどうかでは決まりません。寡黙でも安心感を与える人もいれば、圧倒的なエネルギーで人を惹きつける人もいる。それぞれの“型”でリレーションを築けるのが営業の面白さだと思います。大切なのは、自分の強みを理解し、それをどう活かすかです。

今回のセッションで繰り返し語られた「人脈」ですが、人脈は囲い込むものではなく、開放することで価値を生むものだと思います。“自分の財産だから守るもの”と考えがちですが、実際は逆。囲い込んでしまえば、その価値はそこで止まってしまう。むしろ、人をどんどん紹介してつながりを広げることで、紹介した人も、紹介された人も、そして自分自身も新しいチャンスを得られる。結果的に、その人脈はもっと大きな価値を持つようになるのです。

本セッションを通じて示されたのは、顧客と真摯に向き合い続けることの重要性、そして“信頼は人を介して広がっていく”という真理でした。営業の皆さんがキャリアをさらに経営視点へと広げるための、多くのヒントが詰まった時間となりました。

次回は、社長パネルディスカッション③「スケールの本質 ─ 企業の成長過程で見えた勝ち筋とは」 の内容をお届けします。どうぞご期待ください!

Japan Cloud Leaders Summit in Karuizawa 2025 イベントレポートシリーズ

①オープニング:リーダーシップの本質を問う2日間の幕開け

②社長パネルディスカッション「市場のない市場をつくる ─ 新カテゴリ創出の最前線」

③社長パネルディスカッション「顧客基盤の広げ方 ─ 信頼構築と初期アプローチの勘所」 

④社長パネルディスカッション「スケールの本質 ─ 企業の成長過程で見えた勝ち筋とは」<次回公開>

⑤To Be Updated