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イベントレポート

SaaS × レベニュー組織戦略 – イベントレポート(後編)

著者:鶴原 鉄兵
SaaS × レベニュー組織戦略 – イベントレポート(後編)

収益を最大化させる、新・THE MODEL実践

前回のブログに引き続き、今回はイベントの第二部である座談会パートの様子についてお伝えします。

こちらのパートでは以下、2つの論点にそって、ディスカッションが行われました。

  • 今注目されるCRO (Chief Revenue Officer) とは?
  • 収益を最大化させるため、レベニュー各組織に必要なこととは?
1. 今注目されるCRO (Chief Revenue Officer) とは?
CROの役割

最近、日本でもCROの肩書きを持つ方は増えてきている印象だが、定義は実はまだ曖昧。米国でも営業責任者がCROというケースもあるが、本来は事業全体をみるべき役職。田口さんはFORCAS事業のCEOだが、CRO的役割も担われているのでは?(福田)

CEO着任前はCROを担当していた。「Product以外の事業すべてを見る役職」がCROだと理解している。第一部の「ICP (Ideal Customer Profile = 理想の顧客像) の設計」は本当に重要なポイントなのだが、ICPを決めたとしても分業体制をとると、どうしても部門や担当ごとに「ICP」のイメージがズレてくる。顧客に対する解像度を高め、この部門間のズレを無くし、アラインメントをとっていくことがCROには求められていると感じる。(田口)

福眞さんは社長になって1年。前職では営業責任者だったと思うが、社長になって何か意識は変わったか?(福田)

私も肩書きは「社長」だが、Product開発は本社主導なので、そういう意味ではCROに近い役割を担っている。昨年は立ち上げ期だったので、認知拡大やリード獲得に重点を置いてきたが、今年からは営業プロセスに深く入り込んでいる。来年以降、顧客の数が増えてきたタイイングでカスタマーサクセスの立ち上げに注力したい。ICP設計とリソース配分の重要性を感じている。(福眞)

絹村さんも福眞さん同様、社長になって半年が経過したが、どうか?(福田)

営業責任者だった時は、今四半期や今年度の話が主だった。社長になってみて、中長期のことを考えなければならないし、様々な点でバランスを取ることを求められている。営業責任者とは異なるスキルセットが求められていることをひしひしと感じている。(絹村)


CROに求められるスキル・マインドセット

絹村さんから「営業責任者とは異なるスキルセット」という話があった。営業は新規顧客を沢山受注できるハンター的気質や嗅覚みたいなものが求められるが、CROには何が求められるのだろうか?(福田)

営業責任者の時は「いかに売るか?」ということばかりを考えていたが、CRO/CEOになってから「いかにお客様に長くご愛好いただくか?」と意識が変わった。その後、解約されたお客様の話に真摯に耳を傾けていくと「それは無理があったよなぁ」というケースがそれなりにあった。CROに求められるのは、この「売るべきお客様に届ける」というマインドセットではないか。(田口)

お客様に自社の「価値」を最大限享受してもらうどうしたら良いか、という点に真摯に取り組んでいる企業は増えてきていると感じる。(絹村)

CROは事業全体の数字を見てリソース配分やボトルネック解消への手を打つなど、「未来を読む」という側面があると思う。「数字を見る」という観点ではCFOとも近い能力が求められるが、大きく異なるのはCFOは「過去の実績に対する管理」が主であるのに対し、CROは「過去の実績をベースに未来を予測してリソース配置していく」ことを求められていると感じる。(福眞)


組織間の壁を壊すために

様々な組織を束ねようとするとぶち当たる壁が、個人目標達成に向けた活動と組織間のサイロのジレンマ。具体的には、営業は「売上目標」を達成するために、理想的な顧客でなくても売ろうとする。一方、「更新率」などの目標を背負っているCSMからすると、なんでそんな所に売るの?と組織間の壁ができてしまう。ここはどう解消するのが良いと思うか?(福田)

まず組織としての大きな共通KGIと、各部門単位で持つ中間KPIの両方をバランスよく管理することが重要だと思う。最近のSaaSだと解約率と共にNRR (Net Revenue Retention) を共通KGIとして見るケースが増えてきている印象がある。(絹村)

逆に福田さんに質問したい。『THE MODEL』に「後工程の人間が、お客様の情報を前工程にフィードバックしていくことが重要」という記載があった。これも部門の壁を壊す一つのやり方ではないか?(田口)

ここはその通りで、実は色々な部門の人が入り乱れて会話をしたり、部門ごとに重なり合う「のりしろ」のような遊びを持つことが大切。今、日本でも注目されている「Job型」になると、どうしても自身の役割分担が明確化され、この遊びの部分が少なくなる。(福田)

以前やっていたのは、新しく営業が入社したら、受注後のポストセールスの導入・コンサルプロジェクトに入ってもらうこと。これにより、お客様がつまづくポイントや、どのように使おうとしているのか、といった営業トレーニング以上の気づきを得られたりする。「売った後の責任はカスタマーサクセス」「これはXXX部門の仕事です」と線引きするのではなく、横の領域に積極的に関わっていくことの重要性は強調したい。(福田)

ある種の「曖昧さ」を残すことが重要…、確かに。『THE MODEL』を読んで、分業を進めることが「正」と捉えてしまっている人が多い印象がある。FORCASにも「分業体制にしたけど、うまくいかない」というお悩み・ご相談は多い。(田口)

確かに分業してルール化しようとしている企業は多いが、そう簡単にカッチリ決められるものではない。企業経営は「生もの」なので、どうしても臨機応変に動かざるを得ないケースも多い。そうした中で、組織間の信頼関係が築けてくると、全体最適な動きを皆ができるようになってくるのではないか。(絹村さん)

サイロにならないような報酬設計も大切かもしれない。助け合う「文化」も大切だが、報酬設計が曖昧だと人はそう簡単に動いてくれない。(福眞)


2. 収益を最大化させるため、レベニュー各組織に必要なこととは?

ICPの設計:ターゲット設定に加え、マネジメントシステムによる「振り返り」も重要

前半にも話をしたが、まずはICPの設計が出発点。これを行う上で企業データベース、FORCASのようなソリューションは欠かせない。よく「リードの質が悪い」という言葉を聞くが、主観が多い。自分たちの決めたICPに合致しているか否か?で判断すべき。日本企業ではターゲット顧客を明確にセットするようになってきているものか?(福田)

レベニュー戦略の最初の「ICPの設定」と最後の「マネジメントシステム」をきっちり決めて管理しているお客様はビジネスをうまく管理している印象がある。ただし、ターゲット設定をマーケティングだけ、営業だけ、など単一部門で決めている会社がまだまだ多い印象。部門横断でターゲットを合意することが重要。また、「マネジメントシステム」については、リード→受注までの実績を見て、「ターゲット顧客から受注できているのか?」「ICP設定は正しかったのか?」という振り返りが出来ていないケースがまだ散見される。(田口)

非常に興味深いが、うまく回している会社ではプロセスの全体を管理し、リソース配分しているのは誰なのか?どの部門が見ているのか?(福田)

規模によって変わるかもしれない。スタートアップだと経営層が多い。大企業だと営業企画・営業推進部門などがしっかり旗振りできていると、うまくいっている。(田口)

なお、「ターゲット顧客は?」と聞くと「全方位です」と回答するような企業もまだ存在する。外資企業では「ターゲット=全方位」みたいな会社はないのか?(田口)

基本的には「ターゲットは決めよう」というスタンスは取っていると思う。ただし、実行がともなわず、「商談機会があればどこでも攻めてしまう」というケースはよくある。なお、私はオラクル→セールスフォース→マルケトと、規模の小さい、しかも古巣の競合に転職し続けた。リソースも限られていたので、狙いを集中させないと大企業(古巣)には勝てなかった。この「制約」は、自身にとってターゲットを絞り込む重要性に気付くよいきっかけになった。(福田)

視聴者から「ターゲット設定はどこまで細かくやるべきか?」という質問も来ている。これはどうか?(田口)

事業規模やフェーズによって異なる。XactlyやGainsightのような日本ではまだ小さな立ち上げ期だと、アプローチできる領域が限られる。FORCASや日系大企業だとその前提は変わってくる。一つ意識すべきは「自分たちのリソースはいきなり10倍にはならない」という点。これも制約。ここを考慮しながら、どこまでやれるべきかを考えるべき。選定軸としては業種、部門、ユースケースなどがあり得る。マルケトではB2Bと熟慮購買型のB2C(高額商材や金融商材など)にフォーカスしていた。(福田)

セールスオペレーション:主観と客観のバランスが肝

前半部で福眞さんから「CROにはCFO的な役割も求められる」という話があった。営業フォーキャストの重要性は日本の市場では理解して貰えているか?(福田)

経営層は、決算発表にも直結するので営業フォーキャストの重要性は理解している。しかし、階層が下がっていくとフォーキャストに対する意識は低い印象がある。SFA/CRMを導入し、営業プロセスの見える化は進んできたが、その先の「どの程度で着地するのか?」という点は、経験と勘だのみの会社がまだまだ多い。(福眞)

営業フォーキャストはリソース配分を考える上では非常に重要な要素。フォーキャストが見込みを下回ってしまうと投資家や市場からはネガティブに見られて財務に跳ね返ってくる。一方、コンサバに読んでしまうと「もっとアクセル踏めたはずなのに」という機会損失になりかねない。フォーキャストのレベルが上がれば上がるほど、経営のレベルは上がる。外資系だとXactlyやClariのような専門のフォーキャストツールを使うのが当たり前になっている。(福田)

日系企業の多くは、まだ営業マネジャーが鉛筆をなめて営業フォーキャストの数字をコールしている。本来は一人ひとりの営業担当者も強く意識すべきだと思う。(福眞)

「フォーキャストに課題はない」という企業も多いのだが、ふたを開けてみると、単に業績が伸びていないケースもあったり。また、THE MODEL型といって分業体制をとる会社では、ファネル型でコンバージョン率をベースに売上予測をしていたりする。しかし、これはずっとは続かないし、大きな案件のマネジメント意識が希薄なケースも。(福田)

ちょうどタイムリーに視聴者からオンラインで質問を頂いている。「フォーキャストは、営業マネジャーの経験や勘といった「主観」から、商談情報などの「客観」データを元にするようにシフトしていくことが重要だと思うが、これがうまくいっている例などはあるか?」という質問。(福田)

某外資大手ITでは長年、フォーキャストツールのAIと人間のフォーキャストの精度が競われていたそうで、結果AIの方が精度が高かったらしい。商談情報を沢山食わせれば、正確なフォーキャストはこうしたツールが代行してくれる世界になっていくのではないか。ただ、勿論データだけでは見えない主観の部分も大切で、そこはVSではなくANDで見ていくことが重要。(福眞)

「主観」は確かに重要。分業の話とも似ているのだが、「客観」のゼロイチで決められることなどない。ツールなどの力も借りて客観データを揃えながらも、色々な人の主観も踏まえ、総合的に判断していくことが実は重要。(福田)

カスタマーサクセス:自らの役割を超えて積極的に口を出す

カスタマーサクセスという用語はだんだん市場に浸透してきた印象があるが、その目的はどう捉えているか?(福田)

CSの目的はNRRの最大化(=既顧客からの売上最大化)と捉えている。昨年、Gainsight社の『Pulse』という年次イベントに参加したのだが、参加者の8割が「CSのゴールはNRR最大化」と話されていた。(絹村)

『Pulse』の中でもう一つ印象的だったのは、CSM(Customer Success Manager)が受注前の商談プロセスに首を突っ込んでいるケースが増えてきている点。本当に自社の価値を提供できるお客様なのかを、上流工程に首を突っ込んで確認している。これも分業体制の壁・弊害を超えようとする動きだと思う。(絹村)

ICPを決めるプロセスにおいても、CSMが果たす役割は大きいと思う。どんな議論を、誰とすべきか?(福田)

田口さんの話とも重なるが、営業やマーケの一存でICPを決めてはいけないと思う。やはりレベニュープロセスに関わる全部門のキーマンで議論が必要。(絹村)

話し合って決められればベストだが、どうしても各部門の思惑が出てきて意見がぶつかることはある。そこで意思決定する人としてCROが出てきた背景がある。(福田)

また、分業体制下におけるCSのよくある課題として、「売った後のプロセスは全部CSMでよろしく」と丸投げされるケース。契約更新からアップ/クロスセルといった営業的役割に加え、お客様の活用支援やスキル向上、コミュニティ活動など技術的側面やマーケ的側面まで求められるケースもあり、スーパーマンでないと対応できない印象がある。CS内の分業はどう考えているか?(福田)

自社の製品特性や顧客属性、事業の立ち上げフェーズなど、前提の違いによってCSMに求められる能力は変わってくる。どうしても労働集約的に、「個人の力」で何とかしようとしている企業が散見されるがそれは無理。Gainsightのようなツールを活用しながらも、営業的側面をカバーする担当、技術的側面をカバーする人など、チーム内の担当者の強み・弱みを考慮した役割分担も考えるべき。(絹村)

イベントに参加して:所感

改めて、ビジネスマネジメントにおける「バランス」の重要性を感じることのできたイベントでした。

一人で何でもやることの限界から「分業」がはじまりました。しかし、分業が行き過ぎるとサイロになるので、組織の壁を壊すような連携やKGI/KPI、報奨制度が必要になったり、CROという役割が登場してきました。

フォーキャストの所でも現場マネジャーの経験や勘に頼らず、客観データを元にすべき、という話がある一方、「客観」だけに依存するのではなく様々な関係者の「主観」も重要という話もありました。これも一つのバランスだと思います。

NRRを最大化するためにカスタマーサクセスとしては上流工程に口出しすべき、という話もありましたが、これも行き過ぎると売上成長を阻害するリスクもありそうです。

イベントの中に出てきた「曖昧さ」「遊び」といったキーワードが私にとっては心に残りました。全体と個別の視点を行き来しながら関係者で会話を絶やさず、ある程度の曖昧さや遊びを残し、バランスを取りながら全体最適を目指していくことが、これからの事業マネジメントに求められることを痛感したイベントでした。

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