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イベントレポート

ビジネス拡大につながるコミュニティの作り方

著者:JAPAN CLOUD

Japan Cloud関連会社の従業員を対象に開催した「Japan Cloud Meet-up 2023 Winter」で行われたゲストスピーカーセッションの様子をレポートします。

数々のコミュニティを立ち上げパラレルマーケターとして活躍する小島英揮氏と、外資企業でコミュニティマーケティングに携わりながら、コミュニティがビジネスにどう貢献するのかを研究している長橋明子氏によるセッション。前半は小島氏からコミュニティの役割とポイントを解説いただき、後半はコミュニティに関するJapan Cloudメンバーからのあらゆる疑問に対し、お二人から回答をいただきました。

小島 英揮 氏
Still Day One合同会社 代表社員

ITのB2Bマーケティングで30年以上のキャリアを持ち、AWSではマーケティング本部長として日本のマーケティングを統括。日本最大のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS-UG」の立ち上げに携わる。

長橋 明子 氏
Asana Japan コミュニティ・マーケティング・プログラム・マネージャー

直近の3社で立ち上げたユーザーコミュニティは合計6個。2022年4月より早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)に在学中。

顧客購買行動とコミュニティの役割

小島:コミュニティと聞くとデベロッパー向けの施策と思うかもしれませんが、実はエンタープライズにも効くんですよね。皆さんのビジネスを最もうまくドライブするエンジンになり得る。キーワードは「CtoC化する情報流通と顧客行動」です。

事例でお話ししましょう。AWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」は、現在支部の数が全国で60以上、お客様自身が開催する勉強会の数は年間400以上。つまり毎営業日必ず複数の勉強会がどこかで開催されていて、ユーザーによる新たなコンテンツが生まれています。同じIT業界にいる皆さんは、これと同じことができるポテンシャルがあるという事です。

2016年にUSであったAWSのイベントに、日本からも様々なメディアの方をお連れしました。それで記事になったのは20くらいという、悪くない数字です。一方、一緒に行った日本のお客様が書いたブログは120を超えます。しかもスピードが速い。キーノートが終わった瞬間にもうコンテンツが上がっている。そして実際に使っている人や情報システム担当者の視点で書いているので、めっちゃ刺さる。量だけじゃない、スピードだけじゃない、刺さるコンテンツ。マーケティングの基本ですね。これが生まれてくるので、最終的にGoogleの検索でも上位に上がってきます。

人が動くのに「誰から聞いた情報か」はものすごく大事です。AIDMAって聞いたことがあると思いますがこれは結構古くて、最近はAISASとかAIDCASとかSIPSという購買行動モデルがあります。ポイントは、どれも購買行動「アクション(A)」の前に必ず確認行動があり、アクションの後に共有・満足・拡散の「S」がある。つまり、実際使った人が言ったことをこれから買う人が参照して、購買を決めているということです。

BtoCだけでなく、BtoBもまさにそうですよね。皆さんのところにお問い合わせが来た時には、お客様の中では大体製品選定が終わっているんですよ。行動する際に想起されることがものすごく大事。皆さんのブランドは、お客様が何をしたいときに想起されるようになっていますか? 想起がされないとお問い合わせがないまま失注するということになります。

この「想起集団」に入るためには、お客様の声による想起がある程度のボリュームにならないといけない。ベンダーが直接顧客にコミュニケーションして商品説明するには、その数だけお金と時間と人がかかります。でも顧客層同士で適切な発信者と受信者の関係ができれば、うまくいくと製品に関する想起もどんどん連鎖するのでとても効率が良い。その連鎖を起こす有効な方法がコミュニティです。

コミュニティ成長のポイント

小島:コミュニティマーケティングっていうのは、皆さんがある条件のお客様を束ねる。束ねたお客様と双方向でコミュニケーションする。それよりもっと大事なのは、お客様同士がコミュニケーションできるように促すこと。そうすると情報流通が生まれます。その情報流通をうまく活用すると想起ができる。その結果、皆さんは顧客理解が進み、お客様は製品導入時につまずかず、ロイヤルカスタマーになりやすくなる。

例えばここ(セッション会場)がコミュニティの場だとして、僕が一生懸命皆さんに「これを使ってくれ」って売り込むと、あまりスケールしません。BtoBの場合特に、いいと思っても会社にその要件がなかったら使えませんし、そもそもこの会場にいる人以外に価値を伝えることができない。でも良さを伝えることにフォーカスできれば、この要件だったらこの機能を使うといいよ、という他者(その場にいない人も含め)におススメするコミュニケーションが生まれていきます。「Sell To The Community」じゃなくて「Sell Through The Community」ですね。これをすることによって、単なる認知じゃなくて「それをするならこの製品を使えばいい」となり、そう言われたらもう想起集団に入っているので半分勝ちなんですよね。その想起の連鎖が行動の連鎖につながっていくというのがコミュニティのモデルです。

コミュニティを作るときに気をつけなきゃいけないのは、はじめに集める人です。参加者には、製品の良さを分かっていて伝えられる「リーダー」、それを聞いて他の人に伝えてみる・やってみることができる「フォロワー」、よさそうだけど発信も行動もまだできないという「ワナビーズ」の3つのレイヤーがあります。最終的にはワナビーズの方がかなり多くなりますが、スタート時はぜひ、リーダーとフォロワーのセットからはじめてください。

この人たちがいないと連鎖が起きないんですよね。焚き火の時に、はじめから焚き火台に丸太をたくさん積んで、マッチで火を付ける人はいないじゃないですか。必ず種火があって、火を大きくしてから薪を入れる。全体としては10%〜20%くらいしかいないリーダー・フォロワーからコミュニティをスタートしないと、人を集めても発火しませんし、発火しないと先の連鎖が起きません。

連鎖を起こすためには、「こういうことを達成したい人の場ですよ」「これに課題がある人の場です」という風にした方が、同じような人が集まります。そして心理的安全性のある場所、信頼ある場所を提供しなくてはいけない。それからアウトプットを促す。このセットが必要です。「コミュニティを作っても誰も発信しないです」と言っている人は、たぶん何かを間違えています。はじめに集める人か、場の設定か、促しが足りないんです。

前述のJAWS-UGのコミュニティでは年間400の勉強会と言いましたが、ほとんどはお客様が自主的にやっていて自走しています。実は、AWSのコミュニティマネージャーは1人しかいないのですが、自走化のおかげでこの規模を実現できています。ただ自走化は大事ですが、はじめから求めると大体おかしくなります。はじめは必ず寄り添って、伴走してあげるのはすごく大事。さらにコミュニティを任せる運営メンバーも大事です。運営チームはチームとしてある程度の役割が必要です。何となく楽しいから運営をやるのではなく、任期をきちんと決めて「こういうことをやってほしいです」と依頼した方がうまくいくと思います。

そしてコミュニティをマネージしようと思ったら、大体5つのスキルが必要なんじゃないかと思います。まず、報酬なしに相手に動いてもらうことが必要なので、トラストを作る力が非常に重要ですし、心理的安全性を作れる「信用力」ですね。それから何よりも「製品愛」がないとすぐにコミュニティメンバーにバレちゃいます。一方、会社の中で色々なステークホルダーに対して話をしなくてはいけないので「調整力」。それから、ほとんどの会社はコミュニティをはじめてやるので、説明する「言語化能力」。そしてマーケティングの一体どこをやっているのかをちゃんと理解する「マーケティングファネルへの理解」が必要です。

言語化能力やマーケティングファネル等はトレーニングで覚えることができますが、信用力を教えることはできません。たまにこの5つ全部を一人で持ち合わせているスーパーな人もいますけれど、チームで役割を分けて協力するのもアリです。

コミュニティを盛り上げるためには?参加メンバーの疑問

―― SlackやX(旧Twitter)でコミュニティを盛り上げる難しさを感じています。どうやって盛り上げていくのがいいのでしょうか

小島:オフラインで盛り上がったコミュニティをSlack等に持ってくるのは比較的簡単ですが、問題ははじめからオンラインで作るとき。チャンネルを作って人を入れたって何をしていいかわかんないじゃないですか。だからそこでやりたいことと、役割を与えて期待値を設定して来てもらう。その人が一人ぼっちにならないように球出しもする。

設計がないまま器だけ作っても絶対発火しません。焚き火台にどんどん薪を入れて、マッチを入れても火が付くわけがない。着火剤と、枯れ木と、薪の準備をどういう人でやればいいのかを設計する必要があります。

――オフライン(F2F)での盛り上がりをオンラインで再現できません。何かいい方法はありますか?

小島:Zoomなどで一番難しいのは、同時発生でのコミュニケーションが起こりにくく、基本的に一つのコミュニケーションしかできない。ザッピングもできないんです。オフラインの場を再現するというよりはオンラインの良さを活かして、横につながる双方向の仕組みを入れなきゃいけない。例えばオンラインで話をしているときに、チャットでも会話をうまく促すみたいなことをやると、コミュニケ―ション量が増えてきます。喋る人、モニタリングしている人、チャットでいろいろファシリテートする人、難しい問題が来たら答えられる人等々、運営側の人員が必要になってきます。人手はかかりますが、それがうまくいくと、参加者同志をつなげられるので、いいやり方の一つじゃないかな、と。長橋さん、他に何かあります?

長橋:イベントはコロナ後に変わったと思っていまして、今は都内に住んでいたとしても、なかなかリアルに参加する人ってそんなに多くない。オンラインの場がある方が参加へのハードルが下がったと感じるんですね。ただその分、オフラインに来るのはエンゲージメントが高い人であり、すごい盛り上がりますし、そこでの交流のプレミアムというのはあると思う。オンラインで日常的な接触頻度を高めつつ、オフラインイベントをここぞというときに開催して、そのプレミア感を出すっていうのは大事です。オンラインファースト、オフラインプレミアムだと思ってます。

――既存ユーザーだけのコミュニティに、ユーザー以外の参加者へも間口を広げる時、どんなことに気をつけたらいいですか

小島:初期は招待制にしてもいいんじゃないかなと思います。セールスの人が相対する人で、もっとこのコミュニティを通じて我々の商品を知って欲しいとか、セミナーなどで一度コミュニケーションがあって、そこで「こういう場があるんですけど来てみませんか」という風に次のステップとして紹介する。説明コストがすごく下がるし、期待値設定もしやすいので、ツールとして使いやすいんじゃないかなと思いますね。

長橋:ユーザーじゃない人って響くコンテンツが違うので、よりビジネス寄りや事例みたいな一般的な話の方がうけるケースが多いと思うんですね。でもそうすると普通のマーケティングセミナーみたいな感じになっちゃうので、まずユーザーになってもらって、ユーザーになった人にコミュニティに入ってもらうというステップ、動線が引かれているとスムーズにいきます。ちゃんとファネルを追っていく形に設計するのがユーザーになっていただくという点でも、コミュニティメンバーのリクルートという観点でもいいと思います。

――Asanaの場合、社外アンバサダーの活動を効果的にするうえで留意していることは?

長橋:アンバサダーになれる人はエンドユーザーだけという制度になっていて、販売パートナーはいないので、純粋なユーザーの方だけです。そういう人たちに自主的に活動してもらうため、できるだけ心理的な安全性を確保して、ノイズを排除することに気をつけています。

「コミュニティに対して売ろうとしている」って思われると、コミュニティの勉強会がマーケティングセミナーの場になっちゃうんですね。そうすると参加している人たちの自主的な貢献活動ってしてもらいづらくなります。なので、営業要素を排除する。営業の方が参加するのは悪くはないんですが、お客様対ベンダーの関係性が生まれると利害が発生してしまうので、難しいところがあります。

小島:初めからちゃんと仕組みで排除するっていうのは、かなり賢いやり方ですね。

長橋:仲間になってもらわないといけないので、おもてなしはいいんですけど、おもてなし過ぎてしまって一方的なベンダー対客の関係にならないように気をつけています。あくまで対等であり仲間であり、一緒に当事者意識を持ってやってもらう活動ですよっていうことが大事です。

あとはベンダーへの忖度ですね。完璧な製品はないので、バグとかトラブルがある場合は、どうしてもネガティブな意見が出るケースがあります。それをベンダーが排除するような動きをすると、サッと人がいなくなります。ネガティブな意見の温床になることを心配される人もいると思うんですけど、それはフィードバックの場を別に用意して案内する。忖度させない選択肢が必要かなと思います。

伴走から自走、そしてビジネスへの貢献につなげる

――コミュニティでのKPIはどのように設定していますか

小島:たぶん定性・定量があって、定性がけっこう大事です。リーダーがちゃんと機能しているか、参加者に「自分の場」だと思っていただけているか。自分たちがこれをドライブしていくんだって意識があるかどうかも大事なんですよね。これを測る方法は、実はコミュニティマネージャーの方が人間センサーとなって動かなきゃいけない。

そして定量的なところでいくと、だいぶツールが出てきているんですけど、行動量を見ればいいんじゃないかなと思います。よくNPSを取る方もいらっしゃって、悪くはないんだけど、NPSだけが高くても結局行動しないと意味がないので、行動した数をモニタリングするのがいいと思います。結局来た方がどれくらい発信したのか、どれくらいリアクションしたのかが重要です。

長橋:私たちの場合はグローバルなコミュニティのチームがあり、皆で同じものを見ないといけないので、完全に定量で見ています。コミュニティに関わる一人ひとりの行動をトラックして数値化するツールを使ったり。

小島:よく言われるのは「ビジネスに貢献しているのか」。これは、後ろの工程にどれくらいバトンを渡せたかを測るといいと思います。例えばマーケットイベントにどれだけスピーカーを渡せたのかとか、そこでどれくらいユースケースができたのか。つまりコミュニティが他のマーケ施策のコンテンツやスピーカー供給装置になっているか。後ろの活動にどう寄与したかで測ると非常にいいんじゃないかと思います。

―― ユーザー会の中で発言していただけても、SNSやブログで発信してもらうのは難しい。どうしたら促せるのでしょうか

小島:アウトプットすると心理的報酬が得られるという経験を1回体験する必要があって、それは登壇でも何でもいいんですよね。ブログを1回書いてもらうとか、会社で持っているnoteにゲスト寄稿してもらうとか。「投稿する」「反応がある」を体験してもらって、「これ結構いいな」という経験をした方が3〜4人作られると、一歩前に進み出すと思います。

大事なのはそれを見て他の人が「いいな、私も書きたい」となること。はじめの3人にアタリをつけて、その3人にフォーカスをするとやりやすいです。はじめは一緒に伴走して順番に着火していってください。そこからやると意外と早く連鎖するんじゃないかな。承認されると次もやりたくなるのは同じメカニズムなんで、そのハードルをどう下げてあげるかです。

長橋:まさに私の修士論文の研究テーマです。人が発信するものなので、まず「自分にもできそうだ」と思ってもらわないと行動に移せない。心理学的にそれを自己効力感って言うんですけど、自己効力感の源泉となる経験って3つある(※)って言われていて。1つは「自分が過去にやったことがある」という成功体験。もう1つは代理経験。他の人がやってるのを見たことがあると「あ、こうやればいいんだ」とわかって、できちゃう。3つ目が言語的説得で、コミュニティマネージャーや社員が「やってくれませんか」とお願いしてやってもらうというパターン。この3つのどれかに当てはまる人は何人かいるんじゃないかと思います。私はコミュニティで盛り上がりがどうやったら連鎖してビジネスに貢献していくのかを分析・研究し、コミュニティをビジネスの拡大に役立てていきたいと思っています。
(※正確には、「成功体験」「代理体験」「言語的説得」「生理学的高揚」の4つです。4つ目の「生理学的高揚」は、ドキドキや緊張、高揚などの生理学的な個人の状態を指します。今回の説明では、前の3つに絞ってお話ししました。)

セッション後に行われたネットワーキングでも活発にコミュニティに関する意見交換が行われていました。

参加者からの声

  • 自分がなんとなく思い描くコミュニティと、小島さん、長橋さんが長い間築かれてきたご経験から語るコミュニティは、やはり異なりました。どうやって着火させるか?心理的安全と伴奏の必要性、認知されると更に認知されたくなる心理は大変興味深かったです。
  • 前職がセールスフォースだったこともあり、かなり初期段階で日本ではコミュニティの立ち上げがありましたが、その後、トレイルブレイザーとブランド化し、お客様を主人公かつヒーローにしていく手法を見て来ましたが、盛り上げる手法は他にもあることを知り面白かったです。
  • Communityの目的や枠組み、仕組み作りなど基礎的なところも丁寧にご説明くださり、非常にわかりやすかったです。参加されていた方のロールは様々だと思いますが、他業務でも意識して応用できるような考え方も多くあったのではないかと思いました。
  • Communityの力、立ち上げ方、運営の仕方、とても勉強になりました。日々の活動に活かしていきたいと思います!

小島さん&長橋さん、ご登壇ありがとうございました!

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